小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

審問官第一章「喫茶店迄」

INDEX|9ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

――へつへ。つまり、此の世に、つまり、《秩序》があるのに、つまり、君は、つまり、西洋の《論理》は、つまり、《理不尽》といふ。つまり、君の《論理》に、つまり、《矛盾》がないかい? 
――うふ、《矛盾》はないわよ、天邪鬼さん。だつて此の世の《秩序》がそもそも《理不尽》なのだもの、うふ。
――つまり、《真理》、若しくは《摂理》といふ名の、つまり、《神》の御業を、つまり、把握したいが為に人間は、つまり、哲学から、つまり、始まつて、そして、つまり、数学やら物理やらを、つまり、派生させ、つまり、《真理》の追究に、つまり、邁進して来たが、つまり、君はどう思ふかな、つまり、哲学者や数学者や物理学者等に、つまり、定理、公理、法則等が、つまり、此の世に厳然と、つまり、《存在》すると、つまり、君達は言ふが、つまり、では、その、つまり、定理やら公理やら法則やらは、つまり、何故、どうして、つまり、《存在》するのかを、つまり、その根本の根本のところを彼らに尋ねると、さて、つまり、彼らは何と答えるかね? 
――さうね、多分、解らないと答へるでしようね。
――つまり、其処さ。つまり、彼等は言外で、つまり、《神》の《存在》を、つまり、認めてゐるのさ。更に言へば、つまり、彼等は全て、つまり、一神教の《神》が此の世を創世したと心の深奥では、つまり、信じてゐるのさ。
――さう、それが私の言ふ《理不尽》の根本なのよ。幾何学等を発展させたエジプトやギリシア、そして零を発見したインド、更にニユートンやライプニツツに比肩する程の独自の和算を発展させた日本、これら全て多神教よ。
――つまり、ギリシアを始め、つまり、欧州に原始基督教が布教した頃は、つまり、土着の信仰も許容してゐた筈なのだが、つまり、僕の勝手な考へだけれども、つまり、欧州の土地が、つまり、石畳で蔽はれるのと機を一にして、多分、つまり、一神教の圧制が、つまり、始まつたと思ふ。つまり、これは、つまり、人間の性(さが)だが、つまり、《単純明快》が《美的感覚》と、つまり、結び付いてゐる、つまり、一神教の圧制は、つまり、必然なのさ。
――一神教の圧政? さうかもしれないわね……。
――つまり、話は一気に飛躍するけれども、つまり、無性生殖の単細胞から有性生殖の多細胞へと、つまり、生物が、つまり、進化した事と、つまり、《単純明快》が《美的感覚》と結び付く人間の性と、つまり、密接に関係してゐると考へるのが自然なのさ。
――えつ。どうして? 
――つまり、君には酷な話になるが、つまり、君は既に、つまり、独りで立ち上がつて、つまり、何かを《決心》してゐるから、つまり、直截的に言ふよ。つまり、特に人間だが、つまり、君は、つまり、一つの卵子が作られる、つまり、過程は知つてゐるね? 
――……ええ、多くの卵細胞から卵子に為れるのはたつた一つ。後は卵胞閉鎖で自ら死滅して行くのよ。それを今ではApoptosis(アポトーシス)と名付けて生物学者は何か新発見をしたかのやうにしたり顔で馬鹿みたいに《歓喜》してゐるけれども。
――つまり、君は、何故卵子は一つなのか、つまり、君の考へを、つまり、聞かせてくれないか。
――えつ! 何故卵子が一つなのか? そんな事これ迄考へもしなかつたわ。御免なさい。私、それが《自然》で当然の事だとしか思つてゐなかつたから。卵子が一つなのは何か理由でもあるの? 
――つまり、これは私の独断だがね、つまり、遺伝子には《諦念》或いは《断念》といふ情報が組み込まれてゐる、つまり、私はそれを《断念遺伝子》と勝手に名付けてゐるが、つまり、生き物は《断念》、これは詩人の、つまり、石原吉郎に影響されたんだが、つまり、生物は《断念》を、つまり、《宿命》付けられてゐる。つまり、《断念》無しに、つまり、此の世の《秩序》は在りつこ無いんだ。
――《断念》……ね。うふ、一つの卵子にはそれが生き残る為に無数の死滅した卵子に為れざる卵子達の《怨念》が負はされてゐるのかしら?
――へつへ。つまり、僕の独断で言へば、つまり、その《怨念》を負つてゐる。つまり、自ら死滅した卵子達の、つまり、死の大海に、つまり、たつた一つの卵子がたゆたふ。つまり、そのたつた一つの卵子は、つまり、死滅した無数の卵子達の《怨念》を、つまり、負はなければならない《宿命》なのさ。
――すると、ねえ、……。
――精子だね。さう、つまり、受精はたつた一つの卵子とたつた一つの精子のみしか出来ない、つまり、受精はそもそも、つまり、無数の《死》をそれが《存在》する事の前提として「先験的」に背負はされてゐる。つまり、無数に女性の、つまり、膣内に放出された、つまり、精子達は女性の体内で《死滅》して行く。つまり、僕や君が、つまり、此の世に《存在》する前提に、つまり、既に無数の《死》が、つまり、厳然と《存在》してゐるのさ。
――さう……ね。……ちよつと待つて。ねえ、何故人間は全ての卵子と全ての……精子……を受精させないのかしら? 受精以前に自ら《断念》して死滅する必然なんて何処にも無い筈だわ。
――さうだね。つまり、其処なんだよ、此の世に《秩序》がある《理由》が。つまり、人間もまた、つまり、魚類や昆虫等等と、つまり、一緒に、つまり、他の生物の《餌》になる前提で、つまり、無数の受精卵が、つまり、胎内に、つまり、《断念》せず《存在》してても良い筈なんだ。しかしだ、つまり、現実はさうは為つてゐない。つまり、DNAはどの生物も、つまり、その組成物質の蛋白質は、つまり、《同じ》にも拘はらず、ある生物は、つまり、他の生物の《餌》となるために、つまり、《死滅》せず無数の受精卵が《存在》し、つまり、また、ある生物は《餌》とならないために、つまり、特に人間は、つまり、無数の《死》の大海に、つまり、たつた一つの受精卵を《存在》させる。へつへ、つまり、此の世の《秩序》は、つまり、《不合理》がそもそも「先験的」に、つまり、前提になつてゐる。
――それつて《神》の気紛れかしら。ええつと、Credo……何だつたかしら? 
――Credo,quia absurdum。つまり、《不合理故に吾信ず》。
――それそれ。ねえ、《秩序》は《不合理》の異名なの? 
――いや、つまり、僕が思ふに、つまり、《秩序》は《不合理》を、つまり、許容しなければならない。つまり、それは何故だと思ふ? 
――さうね、《秩序》が《合理》であるとすると、う~ん、そつか、その《社会》には《合理》しか有り得ない。さうすると《主体》は《不自由》極まりないわね。
――さう。つまり、《人類》より遥かに進化してゐる、つまり、昆虫、中でも、つまり、蜂や蟻を考へてごらん。
――御免なさい。私、昆虫は余り詳しくないの。
――つまり、蟻を例にすると、つまり、蟻は大きな群れを作つて、つまり、集団で生活してゐるね。つまり、蟻は、つまり、《社会性昆虫》と言はれてゐる。ところで、つまり、君、蟻に《脳》は、つまり、在ると思ふかい? 
――えつ、さうね、在るんぢやないの。