小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

審問官第一章「喫茶店迄」

INDEX|21ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

『もしかすると……物体が《存在》するとその内部に特異点が隠されているのかも知れぬ……特異点を覆ひ包む形でしか《もの》皆全て《存在》出来ぬとしたなら……因果律も自同律も絶えず破綻の危機に瀕してゐるのかもしれぬ……自同律の不快……これは《存在》の罠でもあり…《存在》を《存在》たらしめてゐる秘儀なのかも知れぬ……すると……中有へ出立した《死者》は自身を徹底的に……ふつ……それは底無しに違ひないが……弾劾する宿命を負つてゐるに違ひない……弾劾に弾劾を重ねた末に残つた自身の残滓を更に鞭打つて弾劾する宿命……此の世に《存在》してしまつた《もの》全てが負つてゐるこの宿命を貫徹した《もの》のみ……未だ未出現の《存在》に出現を促す権利……其処に《魂》……若しくは《精神》のRelayが辛うじて辛うじて行はれるか? ……ふつ……《魂》……若しくは《精神》のRelayは……しかし……必ず行はなければならぬのかもしれぬ……此の世に一度《存在》してしまつた《もの》は……先達の《魂》……若しくは《精神》を受け取つた上で辛うじて……《存在》に堪へられるのかもしれぬ……未知なる《もの》への変容……此の世に《存在》してしまつた《もの》は《死》を受容し……未来に出現する《もの》へその席を譲る……其処に因縁は生じるのか? ……《死》によつて因果律は破綻するのか? ……しかし……破綻した因縁は再び別の此の世に出現してしまつた《もの》に託されるのか? さうだとして……ふつ……不連続の連続性……矛盾は《存在》した《もの》には必然のものだが……矛盾を抱へ込まざるを得ない《存在》してしまつた《もの》は……しかし……自己を責め苛む事で……もしかすると馬鹿げた自己慰撫をしてゐるだけかもしれぬではないか……自同律の不快と言ひながら実際のところ其処でこの上ない自己愛撫といふ悦楽を味はつてゐるのかもしれぬ……自虐が快楽へと変容してしまつたならば……最早その自己内部に引き籠つて外界に一歩たりとも出ない……自己憎悪が最高の自慰行為……か……へつ』
――――ううううああああああああ~~。。
『彼の人も今中有で自己に対して弾劾に弾劾を重ねて倒錯した至高の悦楽の境地にゐるのか……この悦楽はまた……地獄の責苦に等しいか……極限……苦悩と快楽の境に……《死者》は辛うじて佇立し……其処で杳として知れぬ漠たる自身といふ茫洋なる面(おもて)と全的に対峙するか……自身が自身によつて滅び尽くされる懊悩を味はひ尽くす以外……《吾》は《吾》を脱皮出来ぬかもしれぬ……《吾》以外の何かへの変容……幽冥への出立……は……《吾》が《吾》であつてはならぬのか……解脱……か……《死》してのみ《吾》が《吾》を超克するこの《存在》め! ……《存在》よ……呪はれるがよい! ……へつ……へつへつへつ……《吾》が《吾》を呪縛するだけぢやないか……だが……しかし……《存在》する《もの》……この《吾》から遁れられぬ!』 
――――ううううああああああああ~~。。
『それでも……《吾》は《吾》を超克しようともがき続ける……しか……ない……へつ……何とも不自由極まりない! ……そして《死》からも遁れられぬ……《存在》とは何と呪はれた《存在》なのだ! へつ! と自身の《存在》を嘲笑つたところで、やはり《吾》は《存在》する……くつくつくつ……そもそも《吾》は《吾》である事を望んでゐるのか? ……《吾》……この面妖なる《もの》……ちえつ……心臓は相変はらず鼓動してゐるぜ!』 
『……ふむ……常に伸縮せずにはゐられぬ……否……鼓動するように命ぜられてゐるこの心臓は……真の自身を知つてゐるのか……へつ……真の自身て何だ? まあよい……しかし絶えずその姿を変容させるこの心臓は……その鼓動を停止した時に初めて己の何たるかを知るのか……それ迄は絶えざる変容を強要される……哀れなる哉……吾が心の臓! ……動く事がそもそも《吾》を《吾》為らざる《もの》へと動かす原動力ではないか……若しくは時が移ろふ事がそもそも《吾》を《吾》為らざる《もの》へと誘ふ魔手なのではないか……ちえつ……下らぬ……そもそも《吾》が《吾》と呼んでゐる《もの》は《吾》には為り得るか……《吾》は無数の《異形の吾》の《存在》を前にして《吾》に戸惑ふ……か……《吾》の異形は無数に《存在》しやがる……けつけつけつ……例へばこの《吾》が意識すればたちどころに全て実現する魔法を手にしたとして……満ち足りるのは最初の一瞬だけに決まつてる……寝てゐるだけで全てが実現してしまふ世界なんぞ直ぐに飽き飽きするに決まつてゐる……謂はば《吾》は脳のみの《存在体》……つまり……《脳体》へと変容してしまふのさ……それは植物状態の人間と何も変はらぬ……すると《吾》は《吾》の《存在》を滅する事を願ひ出す外なく、否、どうあつてもこの《吾》なる《存在》の抹殺を成し遂げるところの宿願をたちどころに遂げて此の世から消える……意識の窮極の願ひは自ら滅する事に行き着くのが道理さ……しかし……《脳体》は《存在》か……』

…………
…………
 
 ねえ、君、不思議だね。道行く人人は私の視界にその足下の《存在》を残し、その殆どの者とは今後永劫に出会ふ事はない筈さ。袖振り合ふも他生の縁とはいひ条、今生ではこの道行く人人の殆どと、最早行き交ふ事は未来永劫ある筈もない。この見知らぬ者だらけが《存在》する此の世の不思議。ところが、これら見知らぬ者達も顔を持つてゐる。それぞれが《考へる》人間として今生に面をもつて《存在》する。そして、彼等もまた《吾》以外の《吾》にならうと懊悩し、もがき苦しみ《存在》する。不思議極まりないね。全ての《生者》は未完成の《存在》としてしか此の世にゐられぬ。不思議だね。しかも《死》がその完成形といふ訳でもない。全ては謎のまま滅する。此の世は謎だらけぢやないか。物質の窮極の根源から大宇宙迄、謎、謎、謎、謎、謎だらけだ。ねえ、君、《存在》がそれぞれ特異点を隠し持つてゐるとしたなら、ふつふつ、僕は実際に《存在》たる《もの》はそれ自体矛盾である特異点を必ずその内部に隠し持つてゐると看做してゐるがね、しかも、その特異点は無数の《面》を持つて此の世に《存在》してゐる。人間の《面》は特異点の顔貌のひとつに違ひないね。へつ。特異点だからこそ無数の《面》を持ち、へつへつ、実際此の世に《存在》する《もの》全て己の内界を一度でも覗き込めば、其処に無数の《異形の吾》が棲息してゐる不気味さに驚愕する筈だがね、そして、《存在》たる《もの》は全て特異点を、無数の《異形の吾》の《面》として持ち得るのさ。己にもまた特異点が隠されてゐる筈さ。だから、此の世の謎に堪へ得るのさ。へつ、此の世の謎の探究者達は此の世の謎を《論理》の網で搦(から)め取らうと手練手管の限りを尽くしてゐるが、へつ、謎はその論理の網の目をひよいつと摺り抜ける。だから論理の言説は何か《ずれ》てゐて誤謬の塊のやうな自己満足此処に至れりといつた《形骸》にしか感じられない。ねえ、君、そもそも論理は謎を容れる容器足り得るのかね。どうも私には謎が論理を容れる容器に思へて仕方がない……。謎がその尻尾をちらりとでも現はすと論理はそれだけで右往左往し、