小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

蟻地獄~積 緋露雪作品集 Ⅰ

INDEX|4ページ/50ページ|

次のページ前のページ
 

――ふつふつ、それはまたどうして? 
――つまり、喰らふといふ行為そのものに《他》を呑み込み、《他》をその内部に《存在》する事を許容する外部と通じた《他》の穴凹が、この《存在》にその口を開けてゐなければならぬのが道理だからさ。
――だから、お前はこの宇宙以外の《他》の宇宙が《存在》する可能性があると考へるのかね? 
――当然だらう。
――当然? 
――《他》の宇宙、ちえつ、それはこの宇宙の《餌》かもしれぬが、《他》の宇宙無くしてはこの宇宙が《吾》といふ事を認識する屈辱を味はひはしないぢやないか! 
――やはり、《吾》が《吾》を認識する事は屈辱かね? 
――ああ。屈辱でなくしてどうする? 
――ふつふつ、やはり屈辱なのか、この不快な感覚は――。まあ、それはともかく、お前はこの宇宙以外の《他》の宇宙が《存在》する可能性は認める訳だね? 
――多分だか、必ず《他》の宇宙は《存在》する筈さ。
――それはまたどうしてさう言ひ切れるのかね? 
――それは、この宇宙に《吾》であるといふ事を屈辱を持つて噛み締めながらもどうしても《存在》しちまふ《もの》共が厳然と《存在》するからさ。
――《吾》が《存在》するには必ず《他》が《存在》すると? 
――ああ。《他》無くして《吾》無しだ。
――すると、この宇宙が生きてゐるならばこの宇宙には必ず《他》に開かれた穴凹が《存在》する筈だが? 
――へつ、この《吾》といふ《存在》自体がこの宇宙に開ゐた穴凹ぢやないかね? 
――それは《特異点》の問題だらう? 
――さうさ。《存在》は必ず《特異点》を隠し持たなければ、此の世に《存在》するといふ《存在》そのものにある不合理を、論理的に説明するのは不可能なのさ。
――さうすると、《他》の宇宙は反物質で出来た反=宇宙なんかではちつともなく、《吾》と同様に厳然と実在する《他》といふ事だね? 
――例へば、巨大Black hole(ブラツクホール)は何なのかね? 
――ふつ、Black holeが《他》と繋がつた此の世に開ゐた、若しくはこの宇宙に開ゐた穴凹であると? 
――でなくてどうする? 
――さうすると、銀河の中心には必ず《他》が《存在》すると? 
――ああ、さう考へた方が自然だらう? 
――自然? 
――何故なら颱風の目の如くその中心に《他》が厳然と《存在》する事で颱風の如く渦は渦を巻けると看做せるならば、例へば銀河も大概渦を巻いてゐるのだからその中心に《他》が《存在》するのは自然だらう? 
――ふつ、つまり、渦の中心には《他》に開かれた穴凹が《存在》しなければ不自然だと? 
――而もその《他》の穴凹は、《吾》に《垂直》に《存在》する。
――さうすると、銀河の中心では絶えず《吾》に《垂直》に《存在》する《他》の宇宙に呑み込まれるべく《吾》たる宇宙が《存在》し、さうして初めてこの宇宙が己に対する止めどない妄想を自己増殖させつつ膨脹する事が可能だとお前は考へてゐるのかね? 否、その逆かな。つまり、この宇宙が絶えず己に対する《吾》といふ観念を自己増殖させて膨脹するから、その中心に例へば巨大Black holeを内在させてゐる……。さうだとするとこの耳を劈くこの宇宙の《ざわめき》は己が己を呑み込む《げつぷ》ではなく、《他》が《吾》を呑み込む、若しくは《吾》が《他》を呑み込む《げつぷ》ぢやないのかね? 
――ふつふつふつ、ご名答と言ひたいところだが、未だ《他》の宇宙が確実に此の世に《存在》する観測結果が何一つない以上、この不愉快極まりない《ざわめき》は己が無理矢理にでも己を呑み込まなければならぬその己たる《吾》=宇宙が放つ《げつぷ》と看做した方が今のところは無難だらう? 
――無難? へつ、己に嘘を吐くのは已めた方がいいぜ。
――嘘? どうして嘘だと? 
――へつ、お前は、実際のところ、この宇宙の《存在形式》以外の《存在形式》が必ずなくてはならぬと端から考へてゐるからさ。
――へつへつへつ、図星だね。
 此の世に《存在》するあらゆる《もの》の《存在形式》は、此の宇宙の摂理に従属してゐると看做しなしてしまひ、そして、それをして此の宇宙たる《吾》が《存在》する《存在形式》を、例へば「《吾存在》の法則」と名付ければ、必ずそれに呼応した「《他存在》の法則」が《存在》すると考へた方が《自然》だと思ひながら、その《自然》といふ言葉に《自然》と自嘲の嗤ひをその顔に浮かべてしまふ彼は、此の《吾》=《自然》以外の《他》=《自然》もまた《存在》するに違ひないと一人合点しては、
――ふつ、馬鹿めが! 
と、即座に彼を罵る彼の《異形の吾》の半畳にも
――ふつふつふつ。
と、皮肉たつぷりに己に対してか《異形の吾》に対してか解からぬが、その顔に薄笑ひを浮かべては、
――しかし、《自然》は《吾》=《自然》以外の《他》=《自然》の出現を待ち望む故に、《吾存在》を呑み込む《吾存在》がその《吾》に拒絶反応を起こしてはこの耳障りな断末魔の如き《ざわめき》が《吾》の彼方此方にぽつかりと開ゐた《他》たる穴凹から発してゐるに違ひないのだ。
 と、これまた一人合点する事で、彼は彼の《存在》に辛うじて我慢出来るそんな切羽詰まつたぎりぎりの《存在》の瀬戸際で弥次郎兵衛の如くあつちにゆらり、こつちにゆらりと揺れてゐる己の《存在形式》を悲哀を持つて、しかし、心行くまで楽しんでゐるのであつた。

…………
…………

――なあ、「《他存在》の法則」に従属する《他》=宇宙における《存在》もまた奇怪千万な《光》へと還元出来るのだらうか? 
――つまり、それつて《光》の《存在》が此の宇宙たる《吾》=宇宙と《他》=宇宙を辛うじて繋ぐ接着剤と看做せるか、といふ事かね? 仮にさうだとすればそれはまた重力だとも、さもなくば時間だとも考へられるね? 
――ああ、何でも構はぬが、《吾》が《存在》すれば、《他》が《存在》するのが必然ならばだ、此の宇宙が《存在》する以上、此の宇宙とは全く摂理が違ふ、つまり、「《他存在》の法則」に従属する《他》=宇宙は何としても《存在》してしまふのは、《もの》の道理だらう? 
――ああ。
――そして、《吾》と《他》は何かしらの関係を持つのもまた《もの》の道理だらう? 
――ああ、さうさ。此の世における《他》の《存在》がそもそも「《他存在》の法則」を暗示させるし、《他》が《存在》すれば《吾》と何かしらの関係を《他》も《吾》も持たざるを得ぬのが此の宇宙での道理だが、さて、しかし、仮令《他》=宇宙が《存在》してもだ、此の《吾》=宇宙と関係を持つかどうかは、とどのつまりは「《他存在》の法則」次第ぢやないかね? 
――それは《吾》と《他》が関係を持つのは徹頭徹尾、此の《吾》=宇宙での「《吾存在》の法則」による此の世の出来事は、《他》=宇宙での「《他存在》の法則」に変換出来なければならず、つまり、換言すれば、《吾》=宇宙と《他》=宇宙の関係は関数で表わされねばならず、更にそれは最終的には光といふ奇怪千万な《存在形式》に還元されてしまはなければならぬといふ事だね? 
――ああ、さうさ。