テッカバ
取り調べの刑事は明らかに信用していない様子だ。なんだか可哀そう。
「可哀そうですね、九谷さん」
やっと落ち着いた奈々子を従えて唄方くんがやって来た。
「彼女犯人じゃないのに」
ザワッ!
その場に居た全員が驚いて彼の顔を凝視した。
――まさか唄方くん……何言ってるの?
「おいおい、何言ってるんだよ唄方」
赤坂がそんな馬鹿なという口調で唄方くんの肩に手を置いた。
「さっきの俺の推理聞いてただろ? あの女だって自分が刺したって大勢の前で自白したんだ。どう考えてもあのディーラーが犯人だろ?」
馴れ馴れしい態度で私は思い出した。赤坂は元数札持ちのギャンブラー。唄方くんと面識があってもおかしくは無い。
しかし唄方くんの方はあくまでいつも通り、慇懃無礼な口調で、
「聞いてましたよ。確かに九谷さんは刺しましたが、あくまで試験の為のパフォーマンス。つまりこの作り物の謎を用意した神田さん自身の命令です。彼女は犯人じゃありません」
「けっ。相変わらずふてえ野郎だな」
「あなたも一年前、不祥事でクビになった時から変わらず態度が悪い人ですね」
叱りつけるように唄方くんが鋭く言い放った。
……一年前、不祥事でクビ?
私は詳しく聞こうと思ったが、場がそういう雰囲気じゃない。
「……とにかく俺はあの九谷ってディーラーが犯人だと主張し続けるぜ」
「そうですか。それがあなたのこの試験に対する答えで良いですね?」
「試験だと?」
背中を向けていた赤坂が唄方くんの方を振り返る。
唄方くんはポケットから携帯を取り出すとメールフォルダを開いて私たちに見せた。
「この通り、たった今鉄火場上層部から命令が来ました。自分、唄方道行を代理の試験官として試験続行だそうです。もちろん扱う事件は神田探偵の刺殺事件、ゲストも会場に戻して賭けも再開するそうです」
――何ですって!
私は唄方くんに詰め寄るが、赤坂の方が早かった。
「ふざけるんじゃねえ! 人一人死んでるんだぞ! 試験も賭けもやってる場合じゃねえだろ!」
「……何を言ってるんですか? 赤坂元探偵」
「元」の部分を強調して唄方くんが言う。
「人が死んだからこそ賭けを開始して真相を探る。それが我々鉄火場でしょ?」
「……くっ」
正直、私は唄方くんの言う事が納得できなかった。