テッカバ
「で、さっきあんたらに名前を書かせたのは利き手を確かめる為だ。そして今残ってる中で左利きだった奴は……」
言葉を溜めて、それぞれの顔を確かめる赤坂。
「……居ない」
――嘘!
それじゃあ、犯人は本当にこの会場から消えてしまった事に……。
やっぱり赤坂の推理は間違ってるんじゃ……?
「心配要りませんよ。犯人は消えていませんし、赤坂探偵の推理も多分あっています」
横の唄方くんが言う。
「彼はただ、一つの大きな可能性を消去しただけです。ゲストに犯人が混じってるっていう可能性をね」
ゲストに……。
そして、赤坂が場内のある人物を指さした。
「あんたが犯人だ……ディーラーさんよぉ」
なんと、赤坂の指の先に居たのは九谷さんだった。
九谷さんは僅かに微笑むと、続きをどうぞと静かに言った。
「観客席に舞い降りた犯人がコートを捨ててなりすませるのは客だけじゃない。当然すぐにパニックが起こってディーラーが止めに入ってくるから、その中の一人のふりをすりゃ良いだけの話さ
職員であるディーラーは場内に入る時に持ち物検査なんてされない。そしてさっき言った犯人の条件の身長に当てはまるディーラーは女のあんただけだった。利き手も調べればすぐに分かるぜ」
勝ち誇った睨みをきかせる赤坂。
九谷さんは抵抗するでもなく、静かに拍手を始めた。唄方くんと奈々子もそれに続く。
「仰る通り、私があの黒レインコートを着て神田様を襲いました。赤坂様、合格です」
そこで私は何かがおかしいと気付いた。
――合格?
まさか……まさかとは思うが……。
「いい加減気付いてると思いますがね、これは試験ですよ。ギャンブラー採用の為の」
「え?」
「由佳、いくらなんでも人が死んだら警察ぐらい呼ぶわよ」
「え? え?」
じゃあ……もしかして……。
私の頬を汗が伝う。
「さっきからの事件は全部狂言?」
「ええ、偽のナイフに血糊袋を使った寸劇です。赤坂探偵は途中から気付いてたみたいですけど」
……騙された。完全に騙された。
これは全部、あの神田って人が用意した試験の内容だったのか。
ん? でもこの試験として用意された事件を解いたってことは……。
「採用されるのは赤坂探偵ですね。黒御簾さん、また次も推薦しますから頑張ってください」
……がっかりだ。