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テッカバ

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 思わず私は舞台の下から赤坂に食ってかかった。
「どうした? 気に入らねえか、嬢ちゃん」
 眉間にしわを寄せる赤坂。
「なんでIDカード持ってなかったら犯人じゃないのよ?」
「……入口を思い出しな。あそこじゃカードの無い同伴者は持ち物検査を受けることになってるだろ?」
 あ……そう言えば唄方くんがそんなこと言ってた。
「ナイフぐらいならともかく、かさばるレインコートを隠して通過するのは至難の業だ。つまり犯人は検査無しで入れる、IDカードを持った奴に限られる」
 ……なるほど、理解した。これが消去法推理か。
 完全に言い負かされてしょんぼりしている私の肩を奈々子がポンポンと叩く。
「次。身長160センチ以上の者は座れ。あんたらも白だ」
 身長160センチと言えば男性ならほとんどが当てはまる。現に、これで立っているのは残り5人だけになった。いずれも小柄な男性だ。女性客のほとんどは、夫や恋人の同伴客だったのだろう。
 ――これは何で?
 私の視線を感じた赤坂がため息をつく。
「神田のおっさんと向かい合った時に、ほぼ同じ身長だっただろうが。おっさんは小柄だからこれで身長を絞れる」
 この人取り乱しているように見えたけど、実はすごく冷静に事件を観察してたんだ。
 私は少しだけこの赤坂と言う無礼な男を見直す。
「そして最後に、犯人は左利きだ」
 赤坂は高らかに宣言したが、ここははっきりと異論があった。
「待って! 犯人は確かに左手でナイフを握ってたけど、左手に腕時計もしてたわ。それって右利きってことじゃない?」
 犯行の瞬間、私は犯人の袖口の奥で光る何かを見た。その時は何だかはっきり分からなかったが、思い返してみればあれは間違いなく腕時計だ。
 普通左腕に時計を付けるのは右利き。だから犯人はミスリードの為に左手を使って、本当は右利きに違いない!
 しかし、
「嬢ちゃんはバカか? 犯人は向かい合った男の左心房狙うのに、わざわざ狙いにくい左手使ってんだぞ? 右利きならそのまま刺した方が確実だ。普通に考えて腕時計の方がミスリードだろ!」
 ……一蹴されてしまった。
 こいつが見逃してる事に気付いたと思ってたのに、腕時計を知ってた上でそこまで読んでたなんて……。だめだ。流石元ナンバー持ちだけあって隙がない。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎