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テッカバ

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 畜生! 試験の開始にすら気付けずに終わるなんて。
 状況を飲み込み始めたゲストから赤坂に拍手の嵐が起きる。それを私は悔しさを必死に噛み締めながら聞いていた。
 唄方くんが舞台に上り、神田さんの元へ。ずっと死んだふりを続けていた彼を起こすのだろう。
 体に対して横向き、肋骨と平行な刃の向きで刺さったナイフ。あれも偽物なのか……よくできてるな。それにしてもこれだけ周りが騒がしければ神田さんは自分で起きそうなもんだけど……。
 唄方くんが仰向けの神田さんは揺する。起きる気配なし。
 そこでいきなり、唄方くんの表情が真剣なものに変わった。
「黒御簾さん! 警察に通報です」
 え? どうしてよ……。
 嫌な予感がした。あの時、この前の事件でゼミ生の悲鳴を聞き研究室へ走って行く時と同じ感覚。
 死の予感。
「落ち着いて聞いて下さい」
 そう言う本人が動揺を隠し切れていない。
「神田さん、本当に刺殺されています」
 ゾワリ。
 全身の毛が逆立った気がした。
 私は無意識の内に視線を九谷さんへ。会場の人がみなそれに倣う。
「……そんな」
 本当の殺人容疑者となった九谷さんの口から驚愕の言葉が漏れた。
 目撃者は私たち全員。本人が襲ったと自白している。
 通報を受けた警察の到着まで、劇場内は不気味な沈黙に包まれたままだった……。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎