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テッカバ

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血祭オンステージ 5


「きゃああああああああああああ!」
 悲鳴が響き渡る。
 人々が異常事態に気付き混乱し始めるその中、黒レインコートの男はゆっくりと客席の闇の中へと踊り落ちていく。
 やがてその姿は闇に呑まれ、輪郭は無数の観客の中に消えていき……ドスッという着地の音がした瞬間、それは始まった。
 男が落下したポイントから波紋するように巻き起こる悲鳴、怒号。どの客もおぞましい殺人者から逃れようと必死になって席を離れようとするが、かえってパニックに陥り身動きが取れなくなっている。
 見る見るうちに混乱は会場全体に広がった。客たちは逃げ場を求め出口やステージの上へ殺到し、ディーラーが落ち着かせようとその騒ぎの中へ身を投じていく。舞台上に居た私たち四人も率直に言って慌てていた。
 塾講師の上野さんと株トレーダーの京橋さんは突然目の前で起こった殺人や次々に舞台に逃げ上がろうとしてくるゲストを前に、恐怖で後ずさって動けなくなっていた。視線はあちこち泳ぎまわり、むしろ何も見ていない。
 赤坂は刺された神田さんの上に覆いかぶさるようにして「おい! しっかりしろ!」と必死に声をかけている。神田さんが返事をする様子は無いがそれでも「死ぬんじゃねえ」と激しく彼を揺さぶっていた。
 当の私はと言えば無意識の内に唄方くんと奈々子を目で探していた。この異常事態の中でどうすれば良いのか、私一人ではまったく見当が付かなかったのだ。
 パニックが静まるまでに結局十分程かかり、場内が落ち着きを取り戻した頃には犯人は脱ぎ捨てた血塗りのレインコートを床に残して消えていた。
「……つまり、犯人は着ていたこのコートを脱いで観客席のゲストに紛れ込んだわけですね」
 騒ぎの間何処に居たのか、やけに涼しげな顔をして現れた唄方くんが言った。ハンカチを使って指紋を付けないようにコートをつまんで持ち上げる。
 私はぐるりと再び席に座らされたゲストたちを見渡した。
 皆高級そうな背広やドレスに身を包んだ人たちばかり。舞台の上でも思ったが、この賭博師採用試験を直に見れるのはやはり選ばれたVIP客ばかりなのだろう。
 ――この中に犯人が居る。
 ゴクリ。私は緊張のあまり唾を飲み込んだ。
「唄方くん、警察へは……」
 質問には近くの壁に腕を組んでけだるそうにもたれていた奈々子が答えた。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎