テッカバ
最後は眉間にしわの人とは正反対な感じの男の人。痩せた体にモサッとした頭で、しきりに手元のメモ帳にボールペンで何かを書き込んでいる。私は高槻ゼミの連中を思い出した。
この人たちがライバルか。少なくとも嫌味を言ってくれた眉間しわ男には負けたくない。
ビーーーー
と、そこでいきなり演劇の始まりみたいなブザーが鳴った。
何事かと辺りを見回すと、ゆっくりと舞台に下りていた幕が上がるところだった。上がった幕の向こうからはまばらな拍手が聞こえてくるが、暗くてスポットライトに目が慣れた私にはよく見えない。
「さて、皆さんお待たせ致しました! 只今より賭博師新規採用試験を開始します!」
マイクでアナウンスを始める神田さん。
そこでようやく私にも観客席の様子が見えてきて、ちょっと前のモノローグに繋がるわけ。
「司会進行兼試験官を務めさせて頂くのは、私スペードの4こと神田俊章でございます。どうぞよろしく」
今度はかなり密度の高い拍手が返ってきた。奈々子もそうだったけど、数札持ちにもなると客の間でもかなり有名なのだろう。
それにしてもこのおじさん、世界中のセレブの集まりであろうこの空間でよく堂々と喋れるもんだ。私にはとても真似できない。
「では今回の参加者を紹介しましょう!」
そう言って紙束をめくる神田さん。どうやらあれは私たち四人のパーソナルデータらしい。
「エントリーNo.1、上野達也! 日本最大手の学習塾の人気講師にして、冷静沈着、論理的な思考の持ち主だ!」
私から一番離れた所に座っていた、例のメモ帳の人が立ち上がってお辞儀をする。この人が上野らしい。
次はスーツの女の人の番だ。
「エントリーNo.2、京橋望! 二十代にして年収一億を稼ぐ史上最強の株トレーダー、彼女にかかれば事件の未来も先読みだ!」
へぇ! この人が年収一億ねえ。人は見かけによらないものだ。私もやってみようかな、株。
……て言うか、さっきから思ってたんだけどこの紹介文滅茶苦茶恥ずかしい。会場のゲストは神田さんが読み上げる度に熱狂して拍手やら口笛やらをしているが、される側としては顔から火が出る思いだろう。
「エントリーNo.3、赤坂竜馬! 知っている人は知っている、元鉄火場の数札持ちギャンブラー! 犯罪賭博の世界に返り咲く事はできるのか!」