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テッカバ

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 観客はみな一様に、舞台の上の丸椅子に座らされた私たち四人の受験者を見つめている。表情は誰が採用されるかへの興味と言うより、薬物を投与したマウスの様子を観察している時のそれに近い。
 ――こんな大勢の人の前でやるなんて聞いてない!

 ここは鉄火場の端に円形のホールから飛び出るようにして設けられた劇場スペース。位置的には芽樽木屋の反対側にあり、普段はVIP客が自分が金を賭けた犯罪賭博の様子を映像形式で視聴する為の場所らしい。
 九谷さんにここへ案内された私は楽屋を通って幕が下りた舞台に上げられた。そこに居たのはマイクと紙束を持った中年男性と、さっき私の顔写真と一緒にモニターに映っていた男女だった。
「やあやあ君が黒御簾君だね。遅かったじゃないか」
 オーバーな仕草で両手を広げる中年男性。有名ブランドのタキシードを着ているのだが、コウテイペンギンみたいに出っ張ったお腹で台無しだ。
「僕は神田。スペードの4を担当するギャンブラーです。今回の採用試験の試験官だからよろしくね」
 丁寧なような馴れ馴れしいような微妙な喋り方の神田さん。
 唄方くんや奈々子に比べれば人間としてはまともそうだけど、ナンバー持ちを思わせる風格は皆無。だぼだぼズボンとTシャツを着せればそこら辺のパチンコ屋さんに居そうだ。
「はぁ、遅れて申し訳ありません」
「まあ良いから良いから、そこの空いてる席に座っておくれよ」
 舞台の向かって右側、上手の所に集まって座っている他の受験者たちの方へ目を遣ると、私の分一席が空いていた。背もたれの無い丸椅子だが、座ってみると柔らかくて案外快適。
 私が席に着くと神田さんは手に持った紙束を見ながらどこかへ携帯をかけて「準備が整った」とか話し始めた。ここは地下でも電波が通じるらしい。
 不自然でない程度に横を向いて、並んだ受験生三人を見る。
 一人目、私のすぐ隣に座っていたのは眉間にずっとしわを寄せてるちょっと怖そうな人。体格が良くてちょっとヤクザ屋さんっぽい。私が隣に腰を落としたとき「遅れてくるなんてやる気あんのか?」と小声で呟いた。やな感じ。
 その一つ向こうに居るのは女性。ビジネススーツを着てちょっぴりウェーブのかかったセミロングの髪をした彼女は若手キャリアウーマンといった雰囲気か。先ほどの九谷ディーラーを彷彿とさせる。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎