テッカバ
「刑事じゃなくて警部だ」とぶっきらぼうな呟きが頭の中で響いたが、場の空気に合わないので削除する。
「ただ事件を解決するだけで終わらない。その背景を想って、悔んで、悩む事が出来る仲間が自分は欲しかったんです。そんな人こそギャンブラーとして事件を解決するべきだと自分は思う」
だからあなたを推薦しました。そう言う唄方くんの目からはいつもの軽薄さが消え失せ、向こう側が見えそうなほど澄んだ瞳だった。
……そうか。あの時唄方くんは悩んでくれてたんだ。
罪を認めまいと言い逃れを続けるかりんを前に、彼は軽蔑ではなく悔しさを感じてくれていたんだ。どうしてこの人はこんな事をしてしまったんだろう? 誰かが力になってやれたんじゃないか、って。
バカだな、私。
自分の気持ちばっかり先行して、わざわざ推薦してくれた唄方くんの想いなんてこれっぽっちも考えてなかった。
煮えたぎっていた心は落ち着きを取り戻し、その言葉は自然と口から出てきた。
「……ごめん」
そう言えば、長い事この台詞を口にしていなかった気がする。みっともないな、ごめんの一言も言えない大人なんて。
「こちらこそ、黙ってやっちゃってすみませんでした」
ずるい。そんなストレートに謝られたら照れ隠しのしようが無いじゃない!
モニターの前を離れた時と同じく、私はUターンして歩き出す。
「どこへ行くんですか?」
慌てて横で歩調を合わせる唄方くん。口調はいつも通りに戻ってしまった。
やっぱ嫌味な人だ。答えは分かってるくせに。
さて、私もいつも通りで行きますか。
「決まってるでしょ、試験会場よ。私ギャンブラーになりたいから」
「さっきまで泣いていた人の台詞とは思えませんね」
「泣いてないっ!」
やっぱり私は少々意地を張りすぎる。
――確かに私はギャンブラーになりたいと言った。
試験を受けるとも言ったし、やる以上は全力で受かりに行くつもりだった。
だけど……
「いきなりこれは無いでしょ……」
小さめの映画館風な客席にぎっしり入ったゲストたち。見渡す限り人、人、人。
ライトアップされている舞台の上からそれぞれの客の顔は暗いため分からないが、みんな高級そうな服を着ているのは分かる。外の円形ホールに居た遊興客よりも、格段にセレブ具合のアベレージが上がっているように思えた。