テッカバ
「何で帰るんですか? もしかしてギャンブラーになりたくないんですか?」
「ないに決まってるでしょ!」
畜生! ついに一粒目元からこぼれ落ちやがった。
私が怒ってるのはそんなことじゃない。ギャンブラーになる、ならないじゃなくて何て言うか、先に言ってくれなかった事なんだ!
会ってまだ三日とはいえ、協力して事件を解決した仲間だと思っていたし、信頼していた。ぶっちゃけて言えばギャンブラーになって唄方くんと一緒にいろんな事件を追いたいと思っていたくらいだ。
それなのに、何で私にそういう事を前もって言ってくれないのよ! 唄方くんは私のことを利用できる知り合いとしてか見てなかったわけ?
子供の駄々みたいだってのは自分でもよく分かるんだけど、納得行かないものは納得行かない。
自分の中でちょっと期待していた事態なのに、いつの間にか私はそれを自分で拒んでいる。そう考えるとそれがまた悔しくて、悔しくて。
「……嘘ですね」
唄方くんが正面に回り私の肩に手を置いた。出口へ向かっていた私の足もそれに合わせて止まる。
「嘘じゃないわよ。犯罪で苦しんでる人たちを食い物にして賭けなんてやってる組織、大嫌い!」
あーあ。何でまだ意地張るかな、私。
一度言いだすと引っ込みがつかなくなる所は自分のダメな所だとよく分かってる。そのつもりでも、やっぱり意固地になってしまう私はまだ子供なのだろうか?
しゃくり上げる声を必死に隠そうとする私をなだめるように唄方くんは続けた。
「嘘ですよ。あなた、柘植さんのことでひどく後悔してるでしょ」
かりんの……こと……?
「私がもっと早く気付いてれば、彼女を分かってあげてたら、って自分を責めてるでしょ」
……図星だ。
この三日間その事しか考えてなかったな、私。
「でも、それとこれとは関係ないじゃない! 私がかりんのことで悩んでるからってギャンブラーの採用試験とどう関係するのよ!」
「自分も悩んでるからです!」
意外だった。答えの内容も、唄方くんの語調も。
多分私が唄方くんを知ってから彼がこんな喋り方をするのは初めて……いや、一度だけあった。
かりんを追い詰めている時。あの時と同じ言い方だ。
「自分だけじゃない。きっと信楽刑事だって彼女のことで悩んでるはずです」