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テッカバ

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血祭オンステージ 4


「……どういうことなのか説明しなさいよ」
 私は相変わらず緊張感を欠いたにやにや顔の唄方くんに迫った。
「説明しても良いんですけど、殴りません?」
「安心して。説明しなくても殴るから」
 唄方くんは渋々といった様子でボサボサの後頭部をさすり、話し始めた。
「三日前の事件、憶えてますよね?」
 忘れるわけがない。言うまでもなくかりんが高槻を刺殺したあの事件だ。
 私は無言で頷く。
「あの時黒御簾さんは、やたらと自分がどうして高槻教授の研究室を訪れたのか気にしていましたが、実は今回の採用試験のスカウトの為だったんですよ」
 「訪れた」なんて言い方してるけど実際は「忍びこんだ」と言う方が正しい。彼は犯人が逃走した際に鍵を開け放していた窓から部屋に入ったのだ。
 しかし、高槻をスカウト? 鉄火場のギャンブラーとして?
「彼は学会では頭が切れる人物ということでそれなりに有名だったようですし、財界との繋がりもあったようですから。上層部が推薦して来ました」
 そう言えば高槻が国のお偉いさんと仲が良い、って噂を聞いた事がある。
 思い返してみれば、今日までの事件報道で高槻一味の悪行は一切触れられていない。あれは財界の高槻の知り合いから圧力がかかっているという事なのかもしれない。
「でも、高槻教授死んじゃったでしょ? それで人数合わせとして、代わりに自分が誰か一人推薦しなくちゃならなくなったんですよ」
「で、私を本人の許可も取らずに勝手に思いつきで推薦したわけ?」
「本人の許可も取らず勝手に思いつきで推薦しちゃいました!」
 嬉しそうに言うな! この寝癖頭め。
 まったく、付き合ってられないわよ。誰がこんな不謹慎な組織に入りたいなんて思うわけ? こいつは私が推薦されれば喜ぶとでも思ってたの?
 状況が飲みこめるにつれて、驚愕が上塗りされて隠れていた怒りが沸々と沸きあがって来た。
 私は黙って踵を返すと、出口のあった方向へ歩き出した。
「ど、どこへ行くんですか! 黒御簾さん!」
「帰るのよ。悪い?」
 気が付くと目頭が熱くなっていて、振り向く事が出来なかった。
 何で私泣きかけてるんだろ? そんな涙を流すようなことじゃないでしょうに。
 チラチラと私たちのやりとりを見ているゲストに潤んだ目を見られないよう下を向くと、唄方くんが小走りで隣に来た。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎