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テッカバ

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 当の奈々子は澄ました振りしているが、微妙に口元が緩んでいる。持ち前の子供っぽい可愛らしさのせいか、彼女はただのギャンブラーとして以上に有名らしい。
 さっきの交差点でもそうだったけど、世の男性諸君はこういうタイプが好きなのだろうか? 言っとくけどこの子、正体は相当な変人だよ。塩化ナトリウムをジョニー・デップって例えるんだよ?
「自称なのに結構浸透してるのね」
「まーね。アタシったら若くて可愛いからねー」
 くそぅ、反論できない。
 一方もう一人の数札持ちギャンブラーさんはと言えば、中心付近になって人が増えてくるとこちらも囁きが聞こえてきた。
「おい、あれ見ろよ」
「あ! 運だけでのし上がったギャンブラーの唄方道行じゃないか?」
「ホントだ。“運だけ探偵”の唄方だ」
 さっきの声は静かな興奮と憧れが感じられたが、今度のヒソヒソは冷やかな皮肉と嫌味を大量に含んでいる。
「ひどい言われようね」
「……ほっといて下さい」
 言われ慣れてる、って言うか言われ過ぎてるんだろう。唄方くんは眉一つ動かさず不機嫌そうな顔のまま人々の間を通り抜けた。
 やっとホールの中心が見えてくる。何か、薄型テレビをいろんな方向に設置した柱のような物があり、その周りを人垣が囲んでいた。
 宇宙船のコックピットの内壁を装飾ごと剥がして筒状に丸めたみたいだな、と私が考えていると奈々子が柱の方を指して言った。
「あれが『犯罪賭博掲示板』、通称モニターだよ」
 さっき唄方くんが言っていたモニターとはこれの事か。確かに目を凝らすと、テレビモニターそれぞれに事件の名前と何かのリストが載っているようだ。
 周りの人垣は皆それぞれ手にペンとカードのような物を持って、真剣な表情でモニターを睨んでいる。あれは賭けるギャンブラーを選んでいるのだろうか?
「彼ら鉄火場の客はゲストと呼ばれています。彼らが賭けの予想を書き込んでいるのは予想券と言って、そこに名前を書いた探偵が事件を最初に解決すればオッズに応じたお金が返ってくるわけです。他にも鉄火場に出入りする人間にはもう一種類居るんですが、その説明は今は必要ないでしょう」
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎