テッカバ
柱の根元には受付カウンターのような物があり、並んだ客がそこのディーラーにIDカードを見せ、予想券を渡していた。受け取ったディーラーは二つのカードを機械に通した後、予想券にハンコを押して持ち主に返す。競馬で言う馬券みたいなもんだろう。
何か、この会場全体の雰囲気に比べてやってる事はかなり地味だ。そんな事を考えていると人混みの間を颯爽と縫って一人の女性ディーラーが近づいて来た。
シャンプーのCMに出れそうな短めのストレートヘアーのその人はモデルみたいな美人で、きびきびとして無駄のない動きは仕事が出来るキャリアウーマンを思わせる。なんとなくだが、他のディーラーとは別格のオーラが漂っていた。
「丁度探してたとこですよ。唄方探偵、そろそろ試験開始の時間ですけど例の人は連れて来たんですか?」
どうでも良い事なんだけど、唄方くんのことを探偵と呼ぶ人に初めて会った。
で、それが何でどうでも良い事かって言うと、その後私はそれより遥かに衝撃的な宣言を聞くことになるからだ。
「ええ九谷さん。もちろんここに居ますよ」
そう言って唄方くんが手で示したのは、なんと私だった……。
――え? どういう事? 例の人って?
頭の中を疑問符が駆け巡り、何か面倒くさいことに巻き込まれている気がする。
ここは勇気を出して尋ねておくべきだろう。
「あのぉ……すいません。私がどうかしましたか?」
恐る恐る手を挙げながら、九谷と呼ばれた美人のディーラーさんに質問する。
彼女は一瞬信じられない、という顔をした後、人が集まる柱の真ん中辺りに設置された一番大きなモニターを指でさした。
「何って……唄方探偵から聞いて無いの?」
だから何を? と私が言いかけた時、派手な音楽と共にモニターに大きな文字が映し出された。
『鉄火場 ギャンブラー新規採用試験参加者』
文字の下には数名の男女の顔写真と氏名。そして信じられないことに、そこに私の顔と名前があった。
――嘘、でしょ?
そんな私の現実逃避は九谷さんによって儚く踏みにじられた。
「嘘じゃないわ。あなたには試験を受けてもらいます。ギャンブラーの新規採用試験をね」
「……ぇぇぇぇえええええええええ!」
私はどこにでも居るごく普通の女子大生である。
多少、少林寺拳法が使えたりするけど、あくまで普通の女子大生である。