テッカバ
「ここは『芽樽木屋(めたるぎや)』。ちょっぴり無口なマスターが、とびっきりのドリンクを用意してくれる鉄火場の憩いの空間です」
確かに素敵なバーだけど……ここって仮にも国の機関なわけで、そんな所にバーがあって良いものやら。ていうか、これって探偵組織って言うより普通にカジノなんじゃ?
段々緊張もほぐれてきたので質問を二人にぶつける。
「大丈夫です。ここで出来るカジノゲームは全部チップ制で、景品交換は出来ますけど換金はできなくなってますから。これの収益も結構デカいですし」
「バーだって区役所に食堂が付いてるようなもんじゃない? 外国の富豪もいっぱい来るから、高級な雰囲気作っとかなきゃ格好付かないしねー」
あんたらは職員だから良いが、これの管理費を税金として出してる一般国民は怒るぞ?
「大丈夫でしょう。鉄火場の維持費や人件費は全て自身の収益でまかなってますから。むしろ余った売り上げを国債の返済に回してるぐらいですよ」
……カジノってそんなに儲かるのか。
と、ここで私は鉄火場が本来どういう組織なのかを思い出した。
「で、唄方くん。例の犯罪賭博って奴はどこでやってるの?」
鉄火場の本来の役割、それはすなわち探偵同士が事件の解決スピードを競う「犯罪賭博」だ。本部がここである以上、どこかでこの不謹慎極まりない賭け事が行われているはず。
正直私はこの制度には反対だ。確かに国の収益になり犯罪の検挙率も上がっているかもしれないが、事件をゲームとして扱われて被害者やその遺族は嬉しく思うわけがない。
興味と軽蔑、二つが1:1で混ざり合った微妙な心境の私を他所に唄方くんは呑気に伸びをして言った。
「う〜ん、そうですね。そろそろ時間も丁度良いですし、モニターに行きますか」
カウンターにお代を置いて立ち上がる。
彼が言う“時間が丁度良い”が気になったけど、何か嫌な予感がしたので聞かなかったことにした。
「おい、あれ見ろよ」
「あ! 数札持ちギャンブラーの祐善奈々子じゃないか?」
「すげー! 生で“科学色の小悪魔”が見れるなんて、来た価値があったぜ!」
円形ホールの中心へと向かっていく途中、すれ違う一般客から時々ささやき声が聞こえてきた。