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テッカバ

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血祭オンステージ 3


 ゆっくりと扉が開く。
 長い階段の下の薄暗がりにいた私には、扉の向こう側の世界は少しまぶし過ぎた。
 まず第一の印象として、広い。見渡すような円形のホールはちょっとした野球場ぐらいの広さがありそうだ。その中心では大きなシャンデリアが神々しい輝きを放っている。
 フロアの色は一面赤。と言っても目がチカチカするような色じゃなく、高級なワインの色みたいな赤だ。それを踏んでホール内に入るのを一瞬躊躇ってしまった程。
「ようこそ、鉄火場へ」
 左右から同時に声が聞こえて、ドアの内側両サイドに人が立っていたのに気がついた。
 濃いめの青Yシャツと黒い袖無しベストに、落ち着いたデザインのネクタイをしめた男性が私たちを挟むようにお辞儀をして、頭を上げた所だった。その服装はまさにラスベガスに居るようなカジノディーラーそのもの。
 何なんだ? この人たち。
「彼らはディーラー。ここ鉄火場本部の管理や賭博の仕切りなどをしている職員ですよ」
 私の表情を察したのか唄方くんが説明してくれる。
「普通ならIDカードを持たず、誰かの連れとして入った人は持ち物検査を受けるんですけどね。黒御簾さんのことは事前にディーラー側に連絡を入れといたので大丈夫です」
 この間みたいに袖口に包丁持ってたりしないですよね? と茶化したように言う唄方くん。いつもなら足を踏みつけて抗議する所だが、それどころじゃなく私は慌てていた。
 率直に言って緊張していたのだ。私のイメージ内では鉄火場はもっと小汚いと言うか何と言うか、いかにもお役所チックで手狭な場所だろうと思っていた。
 しかし現実はと言えばまさに高級カジノ。天井の高いホールにはスロットマシーンやルーレット台が所狭しと並んでいる。ブラックジャックやポーカーをしているテーブルもあるようだ。さっき見たシャンデリアが落ち着いた色を基調とした空間を明るく照らしていて、とてもここが地下だとは思えない明るさだ。
 客もこの場にふさわしいようなイブニングドレスやら背広やらを着た人が多く、上流階層の社交場といった雰囲気を醸し出している。ゲームのテーブルでその相手をしているのはさっき見たディーラーたちだ。女性ディーラーもたくさん居て、制服は白いブラウスに赤いベストと蝶ネクタイとなっていた。
 ――なんか、私が居るべき場所じゃない気がする。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎