テッカバ
いろんな種類の電子音が飛び交うゲームセンターの中を抜けて、従業員専用と書かれた黒い扉をくぐると上下へ階段が伸びていた。それを下る。
コツーン……コツーン……。足音が静まり返った空間に反響してリズムを刻んでいる。
「由佳は不満みたいだけどさぁ」
小さい歩幅で無理して二段ずつ降りながら言う奈々子。呼び名は由佳で固まったらしい、良かった。
「日本でここほど鉄火場を置くのに向いてる場所は無いんだよ。変な格好した人が居ても怪しまれないから職員や客が街で目立ちにくいし、東京の真ん中あたりで交通の便も良いから。ついでに、ある事無い事いろんな最先端の情報が入手しやすいしね」
う〜ん、確かに。でも、いまいちピンと来ない。
カツーン……カツーン……。
もやもやした心のまま階段を下り続ける。すると、階段が途切れて分厚そうなドアが現れた。ドアには都心の駅の自動改札機にあるようなタッチパネルが付いている。私の田舎はまだ切符を吸い込む形式だったので、東京に出てきた直後はかざすだけで認識する「PASMO」という奴に心底驚いたものだ。
思った通り、唄方くんが財布から鉄火場のIDカードを取り出してそこに翳す。「認証シマシタ」という機械音声がして両開きの扉がゆっくりと内側に開いていった。
扉の開く音に混じって、唄方くんの楽しそうな声が聞こえる。
「ようこそ、鉄火場へ……」
前に感じたのと同じ、サーカスの司会をする道化師みたいな口調。奇妙で不安定な何かが起こる予感。
その時私はまだ思ってもいなかったんだ。この後、あんな事件が起きるなんて……。