テッカバ
はぁ。現実はこんな目がチカチカする騒がしい街だとは……。
「何がっかりした顔してるの、ミッスン?」
ガードレールに寄りかかった奈々子ちゃんが言う。彼女の服装はボーイッシュなのに中身はカワイイ系の女の子、という容姿に惹かれるのか時折通り過ぎていく人が振り返って二度見する。
「ミッスン?」
思わず顔をしかめる。何だそれは?
「うん。『くろみす』だからミッスン」
「勝手に変なあだ名付けないで頂戴」
「じゃあ、“ミッスン”と“腹黒”だったらどっちが良い?」
「だからどうして腹黒が選択肢にあるのよ!」
「じゃあ間を取って“ユカリン”ね」
「どう間を取ったんだ!」
ダメだ……私やっぱりこの子苦手かも。
折角新しい大学の女友達が出来たと思ったのに、こんな変な子だなんてツイてない。普通なら私の方から距離を置いて関係を断ち切るところだが、奈々子ちゃんは学校で使ってる無口モードを解いて私に唄方くんと同レベルでなついてしまったようだ。私が避けても向こうが追ってくるだろう。
くそっ、あの時軽率に話を合わせるんじゃなかった。彼女にしか理解できない塩化ナトリウムの格好良さに同意なんてしなけりゃこんな事には……
一人後悔にふけっていると、唄方くんに肩を叩かれた。
「すいてる入口が分かったので行きましょう」
空いてる入口……?
事情が飲みこめない私に唄方くんが説明を始めた。
「実は鉄火場本部、この十字になった道路の真下にあります」
嘘! この車がひっきりなしに走りまわる交差点の下に?
「そしてこの交差点に面する角のビル、それぞれの地下に入口が設けられているんです。入るときにはそれなりのチェックがありますから、中に居る人に混み具合を確認してもらわないと思わぬ時間がかかることがあるんですよ」
畳んだ携帯のストラップ部分を持ってぷらぷらとさせる唄方くん。
私は自分を中心に交差点を見渡す。
丁度対角上には派手な電飾を掲げたパチンコ屋。向かって右にはCDショップで、左にはゲームセンター。私たちが居る歩道の後ろには大手電化製品量販店だ。信号が青になって、その間の車道を人々が歩き始める。
「この四つのお店全部に?」
「ええ、今空いてるのはゲームセンター口ですから、行きましょう」
そう言うと並んで歩きだす唄方くんと奈々子(もう“ちゃん”付けなくて良いよね?)。私は遅れて後を追う。