テッカバ
それが誰に向けた言葉なのか、“あなた”とは誰なのか、私には分からなかった。
涙を浮かべながら唄方くんのこめかみに銃を当て続けるかりん。私が知っているどのかりんでも無いけど、どのかりんよりも本当のかりんに近い気がする。
私はかりんを勘違いしていた。彼女はしっかりしていたんじゃない。しっかりしている振りをするのが、上手かっただけなんだ。
かりんは本当は弱い子だったんだ。もっと早く気付いていたら、私に何か出来たんだろうか?
部屋には緊張が走り続けたまま。警部は手錠を持ったまま硬直しているし、猿渡と乾も腰を抜かしてしまっている。てっきり雉山も一緒に震えているかと思ったら、何だか私の斜め前あたりで両手を上げかけたような変な体勢だ。視界の端に入って鬱陶しい。
「刑事! その手錠を捨てなさい! 他にも武器があったら全部よ」
警部は「刑事じゃなくて警部だ」と言おうとしたが、おとなしく手錠を部屋の奥、機械類でごちゃごちゃした辺りへ投げた。
かりんがすぐに私たちを撃ち殺すとも思えなかったが、事態は一向に好転しない。
どうにかして説得するんだ。その為には、黙っていてもらわなきゃいけない奴が居る。
私は「絶対に口開くなよオーラ」を込めて唄方くんを睨む。彼は人の神経を逆なですることしか基本的に言わない。
「撃ったらどうです?」
おいおいおい。空気を読め、目で会話する方法を学んでよ!
とても銃を突きつけられている立場の人間とは思えない発言が彼の口から飛び出た。バカが武器を持つのも危険だけど、バカが武器を向けられるのも危険らしい。
「正気? ギャンブラーさん」
「少なくともご飯奢ってあげたのに、その恩を仇で返そうとする人よりは正気です」
「じゃあ仇じゃなくて鉛玉で返してあげようかしら?」
「どうせなら、もうちょっと栄養のありそうなものが良いです」
「誰が食べさせると言ったのよ!」
「え? だってご飯の話をしてたでしょ?」
ダメだ……この二人の会話面白い……。
思わず笑いをこらえる私を他所に、場の空気は悪くなる一方だ。
「本当に、撃つわよ」
「構いませんよ」
「あなた、自分が死ぬって分かってるの?」
「死ぬとは限りません」
何を言っているんだ、唄方くん。そんな至近距離で頭撃ち抜かれれば絶対に……そう思ったところでふと気がついた。彼は運が良いのだ。