テッカバ
本当はさっき、犯人についての情報をまとめている時に私は気づいていたんだ。かりんが犯人である可能性に。唄方くんが強調した“今日”。それは私が物陰に身を潜めて高槻を待っていた時に頭の中にあった言葉だ。
――“今日”殺さなきゃかりんが危ない!
結局考えても、どっちが正しいのか私には分からなかった。だから祈ることにする。
「どうか、証拠がありませんように」……生まれてこのかた、存在を信じた事のない神様に精一杯祈った。
「証拠なんてありませんよ」
ケロっとした顔で言う唄方くん。
集中していた私は思いっきり床にズッコケた。
「漫才の練習なら後でやって下さい、黒御簾さん。自分は最初から言ってたでしょう? 確証は無いって」
確かにそうだけど……。そんなあっさり認めちゃって良いの?
もちろんかりんはこんな絶好のチャンス見逃さない。思っていた通りしっかりとした子だけど、少々イメージが変わって来た。
「証拠も無く人の事を殺人者呼ばわりしてたわけ? おめでたい人ね。あなたそれでも鉄火場のギャンブラー?」
「もちろん。番号持ちでスペードの7担当してます」
「なら私が高槻を刺し殺したって証拠を持ってきなさいよ! こんなの侮辱以外の何物でも無いわ!」
「……」
「何とか言いなさいよ。それとも手品の種はもう切れたのかしら?」
「……」
「何よ、みんな揃って黙りこんで。私が何かした?」
「……柘植かりんさん、気づいて無いんですか? 今自分がとんでもない事を口にした事に」
えっ? えっ? と辺りを見回すかりん。部屋に居る他の者から注がれる視線は冷たい。
……これは流石に私にも分かった。
唄方くんの言う通り、彼女はまさに今とんでもない発言をした。
「これを見て下さい」
そう言って壁を指さす唄方くん。そこにあるのは彼が壁に空けた弾痕だ。黄色いテープで周りを囲んでこれでもか! と目立っている。
「そしてこれも」
続いて唄方くんは入口の前に置いてあった机を押してくると、そこに載っていたビニール入りの証拠品(っぽい関係の無い物たち)の中の一つを指す。
――もう彼女自身も分かっただろう。自分のした問題発言に。