テッカバ
「自分は今の話をしているんじゃありません。もっと前、学食で優しい自分が二人にご飯をおごった時の事ですよ」
ハッ、とするかりん。多分彼女は一生懸命に、あの時の発言を思い返しているのだろう。
私も記憶を探る。そして思いだした。――
「由佳じゃないよね……?」
「えっ!」
「ほら、私が相談した時由佳なんだか思いつめた顔してたし……研究室で高槻教授を襲ったの由佳なんじゃ……」
「無い無い無い。いくら私でも、人を殺そうとまでは思わないよ!」
――そうか。そういう事か。
「あなたは講義に出ていたから、事件の事はまったく知らないと言っていました。にも関わらず、あなたはハッキリ知っていたんですよ。“事件は研究室で起きた”って」
「……」
「その一瞬の違和感で自分は犯人の可能性に気付きました。黒御簾さんから聞いた話ではあなたは教授とそこのゼミ生に弱みを握られ、今日の放課後この研究室に来て言われるがままにするように、命令されていましたね?」
警部が帽子を少し上げ、ゼミ生を睨みつける。途端に狼狽する三人。
三人揃って後で署までご同行だろうな、あれは。
「動機としてそれが当てはまって、次々に自分の中では疑念が連鎖していきました。あなたは9時からの一限目の講義を欠席しています。黒御簾さんには家に居たと言ったようですが、実際はこの研究室を訪れていたのではないですか?
そして殺した段階で、死亡推定時刻からアリバイの無い自分が割り出されるかもしれない。その事に気づいて、とっさに冷房を全開でつける事によってその時間を曖昧にしようとしたのでは?」
「面白い話ね」
唄方くんの問いかけをかりんは鼻で笑って一蹴した。
「でも証拠が無いわ」
「知ってます? その台詞を言う人間は大体の場合真犯人ですよ?」
「だったら証拠を見せなさい。私が高槻教授を殺したって言う証拠を」
睨み合う二人。どちらも一歩も譲らない覚悟が目に表れている。
正直、どっちを応援して良いのか分からなかった。
唄方くんの説明は筋が通っている。何よりかりんが犯行現場がどこだか知っていたのが決定的だ。
でも、かりんは……私の友達だ。田舎から東京に出てきて最初に出来た友達なんだ……。
そんなの今は問題じゃないって分かってる。でも……。