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テッカバ

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「でしょうね。一階の窓なんて用心の為に常に鍵を掛けておくのは常識です。何か良からぬことを考える奴が忍びこむかもしれませんからね」
 とても窓からここに忍びこんだ男の言う事とは思えない。
「ここで犯人に関する最後の情報です。鍵が開けっぱなしになっていた以上、犯人は鍵を開けて窓からここを出て行きました。ただし、入るときはそこのドアからだった可能性が高いです」
「どうしてかね?」
「警部は窓から部屋に入ろうとする人間の為に、内側から鍵を開けてあげるんですか?」
「いや、そんな怪しい人間を部屋に入れようとは」
「教授もそうだったと思います。人目に付きたくなかったのか何なのか分かりませんが、犯人はドアから入り教授を殺害した後、窓から去って行きました
 今分かる犯人に関する情報はこの三つです。『死亡推定時刻を正確にされると困る人物』『研究室で犯行を行わなければならなかった人物』『部屋に入るときは普通にドアから入れた人物』」
 う〜ん……。高槻に恨みがあれば、誰にでも当てはまるような気がするけど……。
「自分も正直まったく分かりませんでした。さっきまでね」
 “さっきまで”……?
 さっきから私とずっと一緒に行動していた唄方くん。何か手掛かりでも掴んでいたんだろうか?
「自分は偶然聞いてしまったんです。犯人の手掛かりを」
 そう言って右手をゆっくりと上げる唄方くん。
 そして……彼が指したのは意外な人物だった。
 指が向いたのは私と唄方くんの間。信じられない……。
「あなたの口からねっ! 柘植かりんさん」
 …………。
 沈黙が部屋を支配した。誰も動かないし喋らない。
 当のかりんは話を聞いていた時と同じ体勢、うつむき加減で腕を後ろで組んだ格好のままだ。
「偶然ですが分かりました。あなたが犯人です」

「どうして?」
 顔を上げたかりんは華麗に微笑む。
 普段の私ならかわいいな、などと思うところだけど今回ばかりはそんな余裕は無い。
「どうして私が犯人でなければならないんですか? さっき由佳に呼び出されるまで私はこの研究室に近寄ってもいないんですよ?」
 昨日見学に来た時を除けばね、とまったく微笑みを崩さずに彼女は言った。
「ならどうして場所を知っていたんです?」
「そんなの、由佳から電話で聞いたに決まってるじゃない」
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎