テッカバ
「それはさっきも言った通り、最後に出た雉山よ。前の二人は被害者の他にもゼミ生が居るから、気づかれずに殺すなんて出来ないわ」
「じゃあ逆に考えてみて下さい。もし黒御簾さんが最後に部屋に残っている人だとしたら、被害者を殺しますか?」
「当り前よ! 他には部屋に誰も居ないんだから当然……ん?」
あれ? 何か違和感。
「気づいたみたいですね。そんな状況で人を殺したら、自分が犯人だ、って言いふらしてるようなものなんですよ。なんせ最後に部屋に居て、被害者と会っていたのはその人なんですから。例外として、三人全てがグルだった場合が考えられますが、それにしては犯行が行き当たりばったり過ぎます。誰が考えたって犯人にされる状況で、実際に犯行を行う人間なんて居ません」
唄方くんは、「まあ、どっかの誰かさんは気づいて無かったみたいですけど」と付け加えた。
ははは。警部には悪いけど、やっぱり後で死体をもう一人分増やさせてもらうとしよう。
そんな私たちを見かねた警部が尋ねる。
「しかし唄方君。それでは犯人が居なくなってしまうじゃないか?」
「そもそも、ゼミ生を疑った段階から間違っていたんですよ」
窓を指差す唄方くん。
「鍵の開いていた窓のおかげで、誰でも自由に出入りすることが出来たんですから。この窓のことは後でまた触れます。
研究室で殺人が起これば、そこで研究している者が疑われるのは当然の流れです。だからこそ、さっきの部屋を出る順番の話と一緒で、そこのゼミ生が自分の研究室で殺人をするメリットなんて何も無いんですよ。殺したければ夜道でも襲えば良い」
確かに……。理屈は通っている。
「ここで新たな犯人の一面が見えてきました。犯人は研究室で、より正確に言うには今日研究室で高槻教授を殺さなければならない動機を持った人物と考えられます」
唄方くんが強調した「今日」という言葉が妙に引っかかる。
何だろう? 頭の片隅でその言葉が僅かに瞬いたような気がする。
「そして窓です。乾さん、この窓って普段から鍵開けっぱなしですか?」
「い、いえいえ! 教授は用心深い人でしたから、戸締りは口うるさかったですよ。俺たちが空けっぱなしにしたドアや窓は、いつもすぐに自分で閉めてロックしてました」