テッカバ
ゆっくりと口を開く唄方くん。その仕草はまるでサーカスの司会をする道化師のよう。
「――――さて、」
「正直なところ申し上げると、今現在自分には犯人の確証がありません」
最初からびっくりさせる宣言だ。壁によりかかった猿渡が眉をひそめる。
「ですが、推測することは出来ます。まず今回の事件と犯人について分かっている事を整理してみましょう。まず、解剖によって分かっている被害者の死亡推定時刻は午前9時から12時。幅が広いのはご存じの通り、この部屋にガンガンでかかっていたクーラーです。それにしても10℃なんて凄いと思いません? うちのクーラーでは18℃までしか下げられないんですよ。さすが研究室は違いますよね。お金のある人は羨ましい……」
話が逸れてきたので唄方くんの足を踏んづける。
「痛ぁっ! 分かりましたよ。で、これは妥当に考えるならば死亡推定時刻を誤魔化すための、犯人による偽装工作である可能性が高いですよね? それとも8時頃にここに居た時クーラー付けてましたか?」
首を横に振る乾と雉山。猿渡も「ああ」と短く返事をした。
「つまり、犯人は正確な死亡推定時刻を割り出されると、非常に困る立場に立っているはずなんです」
「分かった! だったら犯人はあんたよ! 雉山」
私はチャンスとばかりに雉山に指を突き付ける。唄方くんの説明を聞いて確信が持てた。
最後に部屋を出たのは雉山、先に部屋を出た二人は、他のゼミ生に気づかれずに高槻を殺すのはそもそも無理なのだ。僅かな時間差で部屋を後にしている事から、正確な死亡推定時刻が困るというのも当てはまる。
「ちょ、ちょっと待てよ! 証拠はあんのか?」
うろたえる雉山へ私は近づく。
「その慌てっぷりが何よりの証拠よ!」
「黒御簾さーん。恥をかかないうちにやめた方が良いですよ」
…………。え?
「だから、雉山さんは犯人じゃないって言ってるんです。第一、死亡推定時刻はそんな数分単位で出ません」
「じゃ、じゃあ誰が犯人なのよ!」
「うーん丁度いいですから、そっちから詰めて行きましょう」
唄方くんに肩に手を置かれて、かりんの横の元の位置へ戻される。
「最初に部屋を出た猿渡さん、次の乾さん、最後の雉山さん。三人のゼミ生の中で、誰が一番犯人としてふさわしいでしょうか?」