テッカバ
入口で警官に止められたが、唄方くんがIDカードを見せると驚くほどあっさり入れた。信楽警部といいこの警官といい、警察側の人たちは鉄火場の人を恐れてる……と言うより、面倒事と関わるのを避けてるみたいだ。
「まずは、ゼミ生たちの話を聞こうか。人の話を聞くのは大切な事だしね」
白々しい言い方で優等生を気どる唄方くん。
走り回ってた刑事さんを呼び止めて場所を聞くと、三階の空き部屋を使ってゼミ生三人の取り調べをしている、との事だった。
三階の廊下で見張りをしていたお巡りさんも、入口と同じように押し退け、取り調べ場所に向かった。
三つ並んだ部屋のドアに、それぞれ「立ち入り禁止」の張り紙。三人同時に別々の部屋で行っているらしい。
「まあ、口裏合わせられないように、別々にやるのは常識よね」
「よく居ますよね。事件に遭ったことないのにテレビの知識だけでそういう事語る人」
私は後でもう一度屋上の端に唄方くんをおびき出すことを決心し、ドアの前で耳を澄ませた。
どうやら猿渡の取り調べをしている部屋らしい。
「だぁかぁらぁ! 俺は8時50分前には研究室を出たって! 後の二人より先に出たし、その時だって教授は生きてたよ! その後はずっと講義に出てたんだ、教授やダチに訊いてくれ。殺ったのは乾か雉山のどっちかだろ!」
お互いの部屋から声は聞こえないのかもしれないけど、廊下の私たちには完全に筒抜けだ。
なるほど……部屋を出たのは猿渡が最初か。なら確かに殺すのは難しいかも。
次は乾。
「お、俺は猿渡のすぐ後、2分後ぐらいに部屋を出ましたよ。雉山と教授を残して」
後は猿渡と一緒。教授は生きていたし、研究室には死体発見時まで立ち寄らなかった、と。
最後に雉山。
「確かに最後に研究室を出たのは自分ですけどね……。乾先輩が出てから一分もしない内にこっちも部屋をでましたからね。教授? もちろん生きて話してましたよ」
嘘を吐いてるとしたらこいつだ! 最後に部屋を出たなんて怪しい……。
そして私はもう一人犯人の可能性のある人物を思い出した。
「これで彼らの証言は大体分かりましたね」
唄方、こいつだ!
改めて考えてみると、唄方くんが犯人なら全て筋が通る。最後に部屋から出てきたのは彼だし、研究室に居た理由も不明。怪しすぎる……。