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テッカバ

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殺人キャンパス 5


 私のはるか下、貨物に沈み込んだまま唄方くんが息を飲んだ。
「はっ!」
「どうしたの! まさか今のショックで犯人が分かったの!? 私的には雉山って奴とか怪しいと思うんだけど」
「……シロですね」
「えっ! 雉山じゃないんだ?」
「そうじゃなくて……」ゆっくり私を指でさす唄方くん。「……見えてます」
 言ってる意味が分からなくて、ゆっくりと状況を確認する。
 私は屋上、彼は地上。唄方くんは私を見上げる格好になっている。そして今日の私はポロシャツにニットタイ、下は膝上丈のスカートだ。
 ……最悪。しかも屋上と地上の間で今のやり取りをしたわけだから、周りの人に丸聞こえだ。
「唄方くーん! 今すぐ戻って来てー。もう一回突き落としてあげるからー」
「死ねと言われて死ぬ人はいませんよ」
「ならこっちから……」
 せっかく人が心配してやったのにこれだ! もうゆるさない!
 考えるよりも先に体が動いて、手すりを飛び越える。
 ここが五階建ての校舎の屋上だというのもよく分かっていたし、それが普通人間が落ちて助かる距離でも無いことも分かっていた。
「行ってやろうか!」
 落下しながらも壁を弱く蹴り、スピードを和らげる。やっぱり、物凄い速さで地面が迫ってきたけど、不思議と怖くない。
 私の頭にあったのはただ一つ。――あのスケベ男をぶん殴る!

  ダンッ!

 唄方くんの時とは違って、鋭い音と共に足から私はトラックの荷台に着地した。
「……勘違いで刺した時といい、あなたは何か特殊な訓練でも受けているんですか?」
「さぁ? 通信教育で少林寺拳法やってたぐらいよ。人を刺すのも、屋上から飛び降りるのもこれが初めて」
「そんな講座どこの会社でやってるんですか……?」
「ユー○ャン」
「さすが、生涯学習」
 ……何をのほほんと会話してるんだ、私たちは。
「乙女のスカート覗いた罰っ!」
 右拳を固め、唄方くんの顔面に狙いを定める。
 天誅だ!
 恐怖で固まっている唄方くんの顔面から5センチの所まで拳が迫った瞬間……
「何してるの、由佳?」
 かりんだった。もう落ち着いたのだろう。目は赤いけど、他はいつもと変わらない。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎