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テッカバ

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 A〜Kまでのスペードたち。ポーカーのルールはよく知らないけど、多分こんな手札だったら最強なんだろう。
「彼らの序列はトランプゲームの『大富豪』と同じです。つまり2が一番強くて、以下はA、K、Q、J……って具合に」
 なるほど、大富豪なら学校の合宿とかでひたすらやりまくったわね。ヤギリやイレブンバックの有り無しでよく喧嘩した憶えがある。
「そして自分が『スペードの7』、唄方道行。普通は無地の、IDカードの裏にあるトランプのプリントがその証です」
 ね、自分すごいでしょ? 唄方くんが嬉しそうにIDカードを見せびらかしてくる。
 ぶっちゃけ、どれ位すごいのかよく伝わって来ない。7は大富豪の序列で言えば下から五番目、上にはまだ八人も優秀なギャンブラーが居ることになる。

「……で、鉄火場のナンバー持ちさんがうちの大学で何してたわけ?」
「その件は上から言うなって言われてるので無理です」
「怪しいわ……信楽警部は、IDカード見ただけであんたを信用したみたいだったけど、私はそんな簡単に騙されないわよ!」
「しつこい人だな……そんなに自分の事が気になるんですか?」
「そ、そんな訳無いでしょ!」
「腹黒い割に、そんな顔もするんですねー。最近巷で話題の“ツンデレ”ってヤツですか?」
「誰がツンデレだっ!」
 何故、初対面の人間にそんな扱いされなきゃいけないんだ! そう思うが早いか、私は唄方くんの背中を思いっきり叩いていた。
 私としては軽く叩いたつもりだった……が、
「あっ」
 手すりの外へ押し出された唄方くん。
 ここはさっきも言った通り部活棟の屋上、ちなみに五階建て。
 さて、ここで問題です。地球上全てのモノに共通して働いている力は何でしょう?
 ――ピンポーン! 答えは重力です。
「ああああぁぁぁぁぁ!!」
 唄方くんが真っ逆さまに落ちて行く。私の口から今まで出した事もないような悲鳴が飛び出て、手を伸ばしたが間に合わない。
 嘘! 嘘! 嘘! 嘘!! パニックに陥った頭の中を現実逃避用の漢字一文字が埋め尽くして、思考が出来ない。
 そんな私を尻目に、アクション映画みたいに真っ直ぐアスファルトの道に吸い込まれていく唄方くん。
 この高さじゃ助からない……。

  ドボンッ!

 ……想像したよりも柔らかい音だった。
 恐る恐る閉じていた目を開けてみる。
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎