テッカバ
「でも黒御簾(くろみす)さんが頼んでくれたんでしょ?」
「胸元開きながら『困ってるの〜』って言ったら向こうから差し出しただけよ。おかげで今度マネージャーになってくれって言われちゃったわ」
「うわっ! 腹黒い」
「腹黒いって言うな」
あの後、信楽警部は鉄火場本部と連絡を取って、唄方くんの身元を正式に確認、彼が本当に鉄火場の人間だというのが分かったので縄を解いた。そしてなんと警部は私を含め、関係者の身体検査をすると言いだしたのだ。
まずい……今身体検査なんてされたら隠し持った包丁がばれちゃう……。突然ピンチに立たされた私は考えを巡らせ、あるアイデアを思いついた。
「警部さん! 私この人に着替えさせてきます!」
我ながらナイスアイデアだ。警察は鉄火場との関係をもつれさせたくないらしいから、この唄方とか言う人をダシにすればこの場を切り抜けられるかも……。
警部は苦い顔をしながら、
「しかし君も関係者だからな……今婦人警官を呼び寄せてるから少しの間待って……」
「じゃあ、その間に着替えさせてきます!」
警部の言葉をさえぎって言うのと同時に、寒い寒いと文句を垂れてる唄方くんを引きずっ出口へ。
警部が「待ってくれ!」と引き留めるポーズを取ったが私はビシッと敬礼をして、そそくさと人込みを抜けて研究棟を後にした。
ということで今私たちは唄方くんがシャワーを借りた部活棟の屋上に居る。
警察の人が探しに来るまでに後どれぐらい時間があるだろうか? 良い機会だから分からないことを質問しておこう。
「ねぇ唄方くん。さっき警部が言ってた『ナンバー持ち』って何?」
私と並んで手すりに寄りかかったまま、下を行きかう学生を見ている唄方くん。まだ半乾きにも関わらず、再び立ち始めている後ろ髪はどういう構造になっているのだろう?
「ああ。鉄火場の存在は知ってても、詳しいシステムはよく知らない人も多いんでしたね」
そう言って唄方くんはポケットからトランプのケースを取り出した。
「ご存じの通り、鉄火場には大勢の探偵が所属しています。その中でも事件の解決率や、扱った事件の大きさで上位13名には、トランプの札に対応した数字が付けられるんですよ。それが『ナンバー持ち』です」
器用に54枚のトランプからスペードの13枚だけ抜き出すと、ばば抜きで相手に引かせる容量で私に見せる。