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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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闇へ堕ちろ

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「魂」は現世の有様で閻魔大王の審判により、また、最後の審判により、地獄か極楽か、若しくは天国や浄土かに行くことを振り分けられ、《吾》であり続ける「魂」は永劫に《吾》である事で、現世での行ひの責任を取るのだ。

それが理不尽だ、とする向きが大勢を占めていた時代は終はったのだ。やはり、閻魔大王は《存在》し、また、最後の審判もあるのだ。

さうでなくして、「現存在」は現世での《生》を続けられぬのっびきならぬところに追ひ詰められし。

崖っぷちに《主体》と《客体》は共に追ひ込まれ、「ままよ」とばかりにその崖から飛び堕ちたところ、そこは、地獄が燦然と輝く、平安なる《世界》があったのだ。

地獄は、《生》と《死》を共に輝かせるのだ。地獄のない《世界》の虚無感は、もう言はずもがな。Nihilism(ニヒリズム)が永らく蔓延ってゐたが、地獄の再生により、Nihilismを克服したのだ。

――何故、Nihilismを?
――永劫が時間にはそれが《存在》する必要条件になったからさ。
――時間の必要条件?
――さう。時間もまた、永劫を欣求してゐるならば、時間もまた、一次元である筈がないのさ。つまり、時間もまた、何次元かは現時点では名指せぬが、蓋然的に∞次元の相を持った《もの》としてもその表象は現はれる可能性があるのだ。

ゆっくりと一日が暮れゆく時、途轍もない淋しさに陥る《吾》の憤怒は、正坐をして遣り過ごさなければならない。さうして、はっきりと括目して時間を形にならない、否、形に宿る時間を見るのだ。



泥沼の猜疑心

それは何処までも行っても切りがない猜疑心であった。
《吾》が一度《吾》に対して猜疑を抱くと
その蟻地獄から抜け出せないのだ。

「ずばっずばっ」、と蟻地獄がその深淵の底から《吾》を
喰らふために闇の土を撥ね飛ばしながら
その頭を現はし、
蟻地獄の鋏にがっしりと挟み込まれた《吾》は、
更に《吾》に猜疑心が増しながらも、
《吾》といふ自意識を喰らふ事を已めぬ蟻地獄に対して不敵な嗤ひを
その悲愴な顔に浮かべる見栄を尚も保持し、
さうして《吾》の意識と言ふ体液はすっかり蟻地獄に吸はれてしまひ、
すっかり干からびた《吾》は、さうなって初めて《吾》の本性を垣間見る。

さて、この闇の主たる蟻地獄はその棲処の深淵の底で「私」のやうな
道に踏み迷った意識と言ふ体液を吸ひ取りながら命脈を繋いでゐるのか。

ならば、《吾》は自らを敢へて正当化し、辛うじて《吾》に残る矜持で
蟻地獄の巣の底に打ち捨てられし《吾》は《吾》の醜悪な本性と対峙するのだ。

――何を迷ってゐるのか? 蟻地獄が《吾》の化けの皮を剥いでくれたのだ。

さうして、《吾》は般若に化した。



惑溺

女との性交に溺れる事に飽きた《吾》は、更なる惑溺出来る媚薬を探すのか。

――本当か? それはただ、性交してゐる時に《吾》に対する客観的な視点が湧き出てしまふ《吾》に幻滅してゐるだけだらう?

眼前に全裸の女性がゐれば、自然と色恋沙汰が始まるそんな《世界》に溺れる事を善しとするにはいいが、それに対して何の根拠もない事実が、《吾》の全的な性交への没入を妨げる。

――子供が欲しいのか?

勿論、子供が欲しいのが、既に性交に執着する歳は過ぎにけり。

性交が文学的な主題になる時代はもう終はったのだ。

――嗚呼、禁忌が次次と破られし二十世紀の文学的な主題、また、哲学的な命題は、
今となっては子供のお遊びでしかなかった。

《吾》とは、幻滅、屈辱、そして 薔薇でしかなかった。つまり、二十世紀の文学に遠く及ばない。勿論、十九世紀の文学にはその足元にも及ばない。

せいぜい現代を生きる《吾》ができる事と言へば愚劣な先祖返りでしかなかった。

だが、《吾》に巣食ふ《異形の吾》に何時かは食ひ潰されるその《吾》は、果たして、《吾》と名乗れるのか?

それでも《吾》は《吾》と名乗るのが《他》に対する最低限の儀礼だ。それが、いくら不毛でもだ。



幽霊談義

ゆらりと《存在》の背から立ち上りし白き影共が夜な夜な一所に集ひ、
幽霊談義に花を咲かせてゐるのだ。

――ぶはっ、それで奴はどうしたのか?
――何ね、卒倒したのさ。
――遂に卒倒したか!
――だがね、現代において卒倒しない《存在》程、信用出来ない《存在》はないぜ。
――さうさう! 卒倒しなければ《存在》に一時も堪へられぬ。なんとまあ、憐れな《存在》!
――だが、そんな《存在》の背にしかゐられぬ吾等こそもっと憐れな《存在》だぜ。
――話の腰を折るな。そんな野暮なことは皆解かってゐるのさ。だから誰も口にしない。
――ではね、そもそも吾等は《存在》してゐる《もの》なのかね?
――馬鹿が! かうして《存在》してゐるぢゃないか!
――本当に?
――お前はちゃんと《存在》してゐる。
――何を根拠にさう言へる?
――お前に《意識》があるだらう?
――またぞろ、《意識》=《存在》といふ使ひ古された命題を持ち出すのかい?
――否! 《念》=《存在》だ。
――その根拠は?
――此の世に次元が《存在》するからさ。
――次元?
――さう、次元だ。
――待て待て、話が飛躍し過ぎてゐないかね?
――いや、まったく飛躍なんぞしてゐないぜ。

(全体で)――さうさう。全く飛躍はしてゐない。

――どうして? 何故吾等の《存在》に関して次元が登場するのかな?
――吾等は時空間を自在に行き来出来る「現存在」よりももっと優れた《存在》なのさ。
――さうは思へぬがね。
――つまり、次元が《存在》するといふ事は吾等が自在に飛び回れる時空間の《存在》が保障されてゐるといふ事さ。
――何によっての保障かね?
――神仏の類さ。
――神仏?
――さう。此の世を《無》から生み出したの《存在》の事さ。
――馬鹿な? そんな《存在》はゐやしないぜ。

(全体で)――いや、創造主は、若しくは造化は必ず《存在》した筈だ。何故って、此の世に法則があるからね。

――法則?
――さう。神仏の「癖」だ。
――ならば、吾等がかうして《存在》するのも神仏の導きなのか?
――さう。
――ならば、吾等は《出現》出来る可能性はあると?
――既に《出現》してゐるぢゃないか?
――幽霊が《存在》すると?

(全体で)――当然!

かうして幽霊談義は夜な夜な行はれてゐるのであった。
幽霊が集ひしその場は、まるで鮭が放精するやうに真白き空間として此の世にぼんやりと浮遊せし処。



邂逅

既に《吾》に邂逅してしまった《吾》ほど哀しい《もの》はない。
何故って、《吾》が《吾》において既に断念しなければならないからさ。
断念するとは此の世に対峙することでも背を向けることでもなく、
《世界》の為すが儘に《吾》もまた、変容する事を強要される事に外ならない。

ちょっとでも《吾》が摂動しやう《もの》ならば、
誰も遁れられぬ天罰が待ってゐるのだ。

業火に燃える《吾》を《吾》はdéjà vu(デジャ・ヴ)として認識してゐなければならないのだ。
それでも《吾》は《吾》である事に対して一歩も退いてはならぬ。
それが業火に燃える《吾》に対する最低限の礼なのだ。
作品名:闇へ堕ちろ 作家名:積 緋露雪