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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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闇へ堕ちろ

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逃げることすら出来なかったその小鳥は
何とも愛ほしい存在なのであった。

しかし、何と言ふ不覚。
餓死で死なせてしまったことに対する吾が自責の念は、
最早、消ゆることはない。
私が生きてゐる限り、
その畸形と言ふ異形の存在は
吾が脳と言ふ構造をした頭蓋内の闇たる五蘊場に存在し続けるのだ。

その小鳥は未来永劫の自由を手にしたのか。
異形の姿からの解放を手に出来たのか。

その小鳥が自由に飛んでゐる姿を表象しながら
私は今日といふ日常を生きるのだ。



遠吠え

何に呼応してお前はさうして遠吠えをしてゐたのか。
真夜中に何ものに対してか遠吠えしてゐたお前は、
きっと幽霊でも見ちまったに違ひない。

ゆらりゆらりと暗闇に揺れる幽霊は、
しかし、何とも可愛らしいぢゃないか。
幽霊がおどろおどろしいのは間違ってゐるに違ひない。
何故って、お前が遠吠えして呼んでゐたものが
おどろおどろしい筈がないぢゃないか。

さうして幽霊を呼び寄せて、来世について感じ入ってゐたお前は、
しかし、死へと余りに近付き過ぎてゐて、
儚い命を燃やし尽くしてしまったのだ。

遠い昔の先祖の血は抗へぬと、
さうして遠吠えしてゐたお前は、
闇夜に己の存在を主張してゐたといふのか。
そんな薄っぺらことをする筈はないとは思ひつつも、
遠吠えせずにはをれぬお前の焦燥は、
何とも可愛らしいかったのだ。

しかし、最早限りある命を燃やし尽くさうとしてゐたお前は、
此の世でその遠吠えをすることで
己の存在が幽霊でないといふことを確認していたのかも知れぬ。

生と死の狭間に行っちまったお前の遠吠えは、
何時までも俺の胸奥に響き渡り、
残されるのだ。
そんなお前の残滓に涙する俺は、
お前の遠吠えの空耳を聞きながら
お前が此の世に存在したことをしっかと胸に刻みつけ、
俺は今日も夜更かしをして、煙草を吹かすのだ。



漆黒の闇

電灯を消した部屋で瞼を閉ぢた途端に、
眼前は漆黒の闇に包まれ、
其処はもう魑魅魍魎の跋扈する世界へと変化する。

何かがぢっと蹲り、
動き出せる機会を窺ひながら、
そいつは己に対して憤懣が募るのだ。
それは、己が漆黒の闇の中で存在してしまふその不合理に対して、
自嘲し、哄笑し、ちぇっと舌打ちしても、
それを受容してゐる。

何と言ふ矛盾。
しかしながら、矛盾に豊穣の海を見るお前は、
やがてその重重しい頭を擡げて、
そいつは何ものにか既に変化を終へてゐるのだ。

漆黒の闇の中、最早魑魅魍魎しか存在しない夢の世界の如く、
お前は、お前を探すのだ。

――世界はさて、お前のものかね。

と訊くものがその漆黒闇には確かに存在し、
それは余りに人工的な声なのだ。

人類を追ひ抜く存在は、
この漆黒の闇の中の魑魅魍魎の中に必ず存在するといふのか。
やがては人類よりも知的な存在が現れる。
その時、その異形にお前は吃驚する筈だ。

そうなのだ。
人間はその存在に憤懣を持ち、
遂には人間の憤懣をも呑み込む存在を
生み出して、
その邪悪な存在を神聖な存在と看做し、
悪を為さうとしにながら、
常に正を為すところのそれは、
メフィストフェレスの如くにしか振る舞へぬのだ。

その漆黒の闇の中に留まるものは
何時しか邪悪なものへと変化してゐて、
さうして聖なることを行ふ。

哀しい哉、
漆黒の闇の中に棲まふ魑魅魍魎は
邪悪故に聖なる存在へと昇華するのだ。
それは、何ものも闇に蹲るしかないことにより、
頭を擡げたその瞬間、
闇に毒されて、
そう、毒を呷って
闇に平伏するのだ。
その段階に至ると闇の中の魑魅魍魎は全てが歓喜の声を上げて、
己が存在することに対する至福の時を味はふ。

嗚呼、この漆黒の闇は薔薇色の世界と紙一重の存在なのか。

闇を愛するお前は、
その漆黒の闇の中でゆったりと微睡む。



脱臼する言葉

空が枯れ葉のやうに落ちてくる世界は、
それだけ既に朽ち果ててゐる心臓の様相だ。
搏動が止まった心臓は既に肉塊へと変化し、
それは石へと変化を始める。
石になった心臓は只管意思を封殺し、
唯、私は烏だと宣ふのだ。

烏は虹へと変化しながら、
此の世は闇に包まれて、
Auroraが地面を這ふ。
蛇は空を飛び、龍の幼生となり、
天地は垂直線を地に突き刺し、それが林立する。

その垂直線に串刺しになった蛇は
鰻の如く蒲焼きにされ、
何ものかの餌になり、
龍は一向に此の世に現はれぬのだ。

そこで蠅がぶうんと飛び立ち、
石となった心臓に止まり、
卵を産み付ける。
やがて蛆虫が石の心臓を食ひ潰し、
火山岩のやうに穴凹だらけなのだ。

それが再生の道程なのか、
蛆虫だらけの心臓は、
死者にとっては勲章なのだ。
しかしながら、蛆虫の繁殖により、浄化されし心臓は、
再び心の臓になるべく、地震を起こすのだ。
その痙攣した大地に媚びるが如く蛆虫だらけの心臓は、
蟻の巣の如く血管が輻輳し、
さうして生き残った心臓のみが
大地に接吻するのだ。

さうして再びAuroraが沸き立つ大地に
柴田南雄の合唱曲のやうな風音が
審美的になり響き、
烏は生き生きと鳴くのだ。

そして、私自身は麻疹に蔽はれし。



目玉模様

私の掌には手相としてなのか目玉模様が数多く刻まれてゐて、
それを見てしまふと、ぢっと凝視してしまふであった。
或る日、何時ものやうに掌の目玉模様に見入ってゐると、
その目玉模様がぎろりと私を見て、
何やら発話してゐたのである。
しかし、私の耳は、きいんと耳鳴りがするばかりで、
その目玉模様が呟いてゐる内容を聞き取れず、
唯、想像する外なかったのである。
例へば、かうである。
――お前が俺である証左は何かね?
と、訊いてゐたに違ひないのである。

しかしながら、そんな下らぬ問ひに答へる義理立ては私には全くなく、
唯、その私の掌の目玉模様が手相としてあるのであれば、
占ひの観点から見ると、それは悪相なのかも知れぬと思ひなし
私は、その目玉模様がぎっしりと並んだ掌の手相を見ながら、
私の未来はどうなるにせよ、
目玉のやうに見者としてあるべきであると言ふ予兆なのかも知れず、
何事も凝視せずに入られぬ私の癖は、掌に現はれてゐるだけなのかもしれぬと、
既に幸福と言ふものを断念してゐる私には、
その目玉模様の手相がお似合ひなのかも知れぬ。

しかし、私は幻視好きなのかも知れぬと哄笑しながら、
高が手相に目玉模様がぎっしりとあるだけで、
未来の私を想像して已まないその癖は、
何に対しても意識が存在するといふ自然崇拝に対する
余りに楽観的な在り方といふよりも、
その目玉模様がぎろりと此方を睨む
その視線に怯える私の侏儒ぶりに苦笑しながら、
あれやこれやと肝を冷やしてゐるのだ。

だが、もう立たう。
手相に暗い未来が暗示されてゐたところで、
所詮一人の人間の生死に帰することでしかなく、
高高そんなことである以上、
どう逆立ちしても取るに足らぬ下らぬことでしかない。



対座

お前は無造作に俺の前に対座して、
徐にかう問ひかけた。

――では、お前は何処にゐる? まさか、俺の目の前に対座してゐるなんて思っちゃゐないだらうな。
作品名:闇へ堕ちろ 作家名:積 緋露雪