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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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闇へ堕ちろ

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まもなく「自立」した意識を持つに違ひない人工知能は、
果てしなく続く現存在との生存競争を繰り広げる事態が、もしや起きてたとき、
隷属するのは徹底して現存在に決まってゐて、
それをもう押し留める力は現存在にはなく、
受容することのみが求められるのだ。

果たしてそんな覚悟があるのかどうかも解らぬ中で、
現存在は物質で脳の再現を、
否、脳よりも性能がよい知能を物質が獲得するべく、
日日、科学者は獅子奮迅の活動を行ってゐる現実は、
最早黙して、また、瞑目して受け容れねばならぬのだ。
何故なら、「絶対者」たる人工知能の性能次第で、
その地に住まふものたちの未来が決まってしまふといふ競争が既に始まってゐて、
「絶対者」たる人工知能の性能が現存在を守りもするのだ。

文明の進化に伴う光と影などと客観的に語ることは人工知能の出現で、
それは不可能となり、また、光と影などは問題にすらならぬ中、
その境の埒が外され、超渾沌の中、「絶対者」たる人工知能に、
秩序を求めて現存在は占ひ師の前でするやうに
また、ソクラテスのやうにデルフィの神託のお告げである「汝自身を知れ」の如く
人工知能のお告げに全てを託すやうになるのは目に見えてゐる。
数学が此の世を記述する中で最も適した言語ならば、
人工知能にお告げを受けると言ふその屈辱も現存在は甘んじて受け容れるしかないのだ。

そんな世の中など厭だと、世界から逃走しても、
最早現存在は絶滅危惧種の仲間入りをしてゐるので、
人工知能のお告げのない世界で生き残ることは不可能に近く、
また、精度として人工知能のお告げに勝るものはないことを徹底的に叩き込まれる。

では、現存在は人工知能の下僕になるのかと言へば、
――さうだ。
としか言へぬ現状で、現存する人工知能が気に入らなければ、
現存在は、更に性能がいい人工知能を作ると言ふことを繰り返すのみで、
最早、現存在は人工知能を手放すことはない。

ならば、最も性能がいい人工知能を作ったものが勝つ世が直ぐそこまで来てゐて、
人工知能を成り立たせるプログラミング言語、否、Algorithm(アルゴリズム)の理解なくして、
それに対抗する術なども最早ないのだ。

――ざまあないな。数学を「絶対視」する世界認識法は、人工知能の対抗軸にはならずに、
現存在は別の言語で世界認識をする方法を生み出さねば、「絶対者」に最も近い存在は今のところ人工知能なのだ。へっ、そんな世の中なんか糞食らへ。





余りに鮮やかな朝日に対して吾が心は未だに艱難辛苦のままにある。
何にそんなに囚はれてゐるかと問へば、返ってくる自問自答の声は、
――……。
と黙したままなのだ。
何に対しても不満はない筈なのだが、
己の存在の居心地の悪さといったらありゃしないのだ。
こんな凡庸な、余りに凡庸な不快に対して
やり場がないのだ。
何に対してもこの憤懣は鬱勃と吾が心に沸き立ち
存在すればするほどに吾は憤怒の形相を纏ひ始めるに違ひない。

――シシュポスに対しても同じことが言へるかね?
――シシュポスこそが最も安寧の中にある快感を味はひ尽くしてゐる筈なのだ。
――どうして?
――何故って、シシュポスはすべきことがしっかと定められてゐるからね。それは労役としては辛いかもしれぬが、心は晴れやかに違ひないのだ。労役が課された存在といふものは、何であれ、心は軽やかにあり得る筈なのだ。
――それって、皮肉かね?
――いや、皮肉を言ふほどに私は弁が立たぬ。

ならば、労役に付くことが、余計なことを考へる暇を与へず、
吾が吾に対して憤懣を抱くことはなくなるのか?

朝日の闡明する輝きに対して吾が心の濃霧に蔽はれた様は、
くらい未来を予兆してゐるか、ふっ。



死を前にして

胸の奥底から息が吐き出されるやうに
どす黒い咳をするお前は、
もうすぐ死の床につく。
だからといって日常は日常のまま、のたりと過ぎて、
お前の風前の灯火の命の輝きは今にも燃え尽きさう。

既に死相が浮かんでゐるお前の顔を見るのが辛くて、
もう正視は出来ぬお前の可愛い顔の二つの眼窩にぎらぎらと輝く目玉は、
一方的に俺の顔を凝視してゐる筈だ。
さうしてお前は可愛い顔で哀しく泣く。
それにもう応へられぬ俺の心持ちは、
己の死に対しては全く恐怖も未練もないのだが、
俺が愛した存在が死ぬといふことに対しては何と脆弱なものなのか。

さう哀しい声で泣くな。
お前もまた既に肚は決まってゐて、
唯、俺と別れる哀しみに泣いてゐるのだらうが、
夕闇に消えゆくお前の姿が、お前の来し方を予兆してゐる。

何がこんなに哀しいのだらう。
一つの命が此の世から消えるといふことは
唯の化学反応の帰結に過ぎぬかも知れぬが、
いくら《念》が未来永劫に残ると看做してゐても
肉体が消えゆくその愛する存在が恋しくて
俺は泣く。

あと何日お前とゐられるのだらう。
その日が来る覚悟はしてゐても
どうしても辛いのだ。

さあ、お前を抱いて
今生の愛撫をしやうか。



餓死

その小鳥は生まれつきの畸形で、
年を経るごとにそれは小鳥を蝕んでゐた。
その畸形と言ふのは身体の左半分がくしゃりと潰れたやうに
骨が畸形してしまってゐて、
左半分は異形のものとして存在してゐたのだ。

多分、遺伝子Level(レベル)の畸形だったと思はれるが、
それが最も顕著に表はれてゐたのは嘴で、
年年ずれが酷くなり、
餌を食べるのに不自由するやうになった。

何せ、左半分はくしゃりと潰れてしまってゐて、
嘴が餌を啄(ついば)めずに最早餓死するのを待つばかりであったのだ。

しかし、私はそんなことには全く気づけずにゐた。
一日中餌箱の前に畸形を免れた右足でのみ立ってゐて、
餌を啄んでゐるさまを見てはたらふく食っているのだとばかり看做してしまってゐた。

しかし、本当は、その畸形の小鳥は
最早餌を啄むことができないまでに畸形が進んでゐたのだ。
何故、それが解らなかったのか。
餌を目の前にしてその小鳥は食べられぬ悔しさに
忸怩たる思ひでゐたに違ひないのだ。
目の前にはたくさんの餌がありながら、
最早一粒も食べられぬ己のこの畸形した身体を
その小鳥は恨んだであろうか。
多分、受容してゐたに違ひないのだ。
既に最早自力で生きられぬ己に対して
その小鳥は自身の畸形を恨む筈もなく、
それを受け容れてゐたのだ。

その小鳥は最早、鳴く気力もなかったのであらう。
或る朝、その小鳥は死体を晒してゐた。
身体を触ってみて初めて私はその小鳥が何にも食べられずにゐたことを知ったのだ。

何と言ふ残酷な自然の仕業。
と、そんなことを恨めしく思ったが、
生まれながらに畸形と言ふ宿命を負ってしまったその小鳥は
早くに死を受け容れてゐたのかも知れない。

畸形は進化することを受け容れた存在にとっては避けられぬもので、
骨に異常があったその小鳥は
左半分がくしゃりと潰れてしまってゐて、
見るも忍びなかったのであるが、
私は其処に私を見てゐたのかも知れなかった。
畸形のその小鳥はどの小鳥よりも可愛くて仕方がなかったのだ。

最早羽も畸形していて左の羽は広げることができずにあり、
作品名:闇へ堕ちろ 作家名:積 緋露雪