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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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闇へ堕ちろ

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貧血でぶっ倒れるときでも直立不動の姿のままどすりとぶっ倒れろ。
それがこの世界に対するせめてもの反抗の形なのだ。
アトラスの如く世界を背負ってゐるといふ自負を忘れてはならない。
現存在は、世界に登場したならば、
つまり、投企されたならば、
最早退歩は許されぬのだ。
世界が移ろふ現在といふ時制に乗せられるのみで、
それで満足する覚悟が、
その立ち姿に表はれてゐないとすれば、
それは怠惰と言ふ物なのだ。

存在する事に怠惰する時間は誰しもに与へられてをらず、
あるのは黙考する時間のみ。
そして、仮に異性を愛する時間が持てたなら、
それは僥倖といふものなのだ。
だから、徹底的に愛を貪り、
時間を忘れて形振り構はず、性愛に耽るのだ。
さうして解る現存在の在り方は、
直立不動の立ち姿なのだ。
それ以外、認めてはならぬ。
限界を超へてまでも直立不動であるべきなのだ。

さうして現存在はやっと世界に抗し、
一矢を報ひるといふ幻想を抱けるのだ。
さう、幻想だ。
土台世界に現存在が抗することは
考へる葦たる現存在をみて、
世界は鼻で笑ってゐる筈なのだが、
その性根が悪い、さう、世界はアプリオリに性根が悪いその世界は、
唯只管に直立不動の立ち姿のみに
きりりと緊張して対するのだ。
何故かと言ふと、
現存在の覚悟を直立不動の立ち姿に見るからなのだ。

現存在は、世界に振り回される運命としても
立ち姿のみは自身の覚悟で決まるのだ。



曖昧な

濃い霧の中にでも放り込まれたやうに
私は既に世界を失ってゐた。
辺りは無気味なくらゐに静寂に包まれ、
私が現在どのやうな状態にあるのかすら判別出来なかった。

つまり、世界は私の状況を知るには最も基準になるものに違ひないのであるが、
しかし、私はそんな曖昧な私の状態をこよなく愛してゐる私自身を其処で見出した。

私の存在に関して果たして世界は必要なのだらうか。
自己解析する分には世界は必須であらうが
事、私自身が私自身において私を語る分には世界は或ひは必要ないのかもしれぬ。
私は曖昧な世界の中で、
何にでも変身出来、妄想を逞しうして
その妄想にたちどころに変化する私を思ふのだ。
其処に世界が割り込む隙間はなく、
世界が無くとも私は私の存在を確信できると、
しみじみと思ふのだ。

確かに、世界の存在が明瞭ならば、私の存在も明瞭になるのは自明の理だが、
しかし、仮令世界を失っても私は私であることを已めやしないのだ。

――何をほざくと思ったならば、世界の紛失が私が私を見出す契機になる? 馬鹿な! 世界の紛失は則、私の消滅を意味してゐるのだぜ。
――だが、曖昧な世界においても私は私の存在を全く疑ふことはないんだ。つまり、死後も私は残るのだ。
――馬鹿な。死して尚も私が存在するといふ戯言は譫妄のなせる技で、お前は既に気狂ひの仲間入りをしてゐるのだ。

気狂ひであらうが、其処には必ず誰にも知られぬ私が確かに存在してゐて、
その私を忖度する権力は、私以外誰も持ち合はせてはゐない。

何故だらう。
この濃霧の中に没したやうな世界にあってすら、
私は私の存在の根拠を世界に求めてゐるのは確かだが、
しかし、私は何処かで世界は既に私を見捨ててゐると看做してゐるとも感じてゐて、
世界の無い中にでも私は存在してしまふ業の深さのみを感じるのだ。



睡魔に溺れる

夢魔に睨まれたのか、
どうしてもこの睡魔から逃れる術は私にはなかった。
突然の夢魔の襲来に
何の準備もしてゐなかった私は、
その不意打ちに為す術はなかったが、
睡魔に陥落する私は、
しかし、夢魔の挑発には乗る気力も無く、
只管、眠りを貪った。
その寝てゐる時間に、
夢魔は何をしてゐたのか不明であったが、
睡魔に陥落した私を嘲笑ってゐたことは間違ひなく、
その無防備な私の寝姿に至極満足の体であった筈なのだ。
唯、私に何もしなかった夢魔は
もしかすると黙して沈思黙考の中に沈んでしまってゐたのかもしれぬ。
その証左に夢魔が眠りを貪る私に対して何もせず、
唯、私の寝姿を眺めてゐた夢魔は、
己の醜態を見てしまったのか。
夢すら見てゐても全く覚えてゐない私に対して、
もしかすると夢魔は為す術がなかっのだらうか。

私が夢魔の思考を乗っ取り、
私が夢魔に成り切って、
さうして夢魔は即自でしかこれまで存在の形式を持ち得なかった己に対して
復讐してゐたのかもしれぬのだ。

即自としてしか己を思考出来ない哀しみに夢魔はもしや疲れてゐたのか、
対自として、脱自としての夢魔の有り様に思ひを馳せてゐたのかもしれぬ。

しかし、そんなことは睡魔に溺れた私にとっては、
構ってられなく、
睡眠を貪る中で、崩れてしまった体調を回復するべく、
何時間も眠ることを已めなかった。

と、不意に目覚めた私には、夢魔の姿を見られる筈もなく、
また、そんなものを探す余裕はなく、
まだ、私を摑んで離さないどうしやうもない睡魔に
再び溺れてしまふのであった。

――何を思ふ。夢魔は遠目に存在の無気味さに改めて気が付いてゐたのかもしれなかった。さうなのだ。即自としての存在様式にうんざりしてゐた夢魔は、私を直截に欣求してゐたに違ひない。さうして、夢魔は己を捨つることを希求した。



無意識といふ麻薬

無意識といふ言葉は無意識に実際にあるか如く使用されるが、
果たせる哀、実際にはそんなものはないと思ふ。
意識は全て意識上に浮上してゐて、
意識下に沈下してゐるものは、
沈下してゐるやうに擬態してゐて、
それらはぼんやりしてゐるときに肉体が表現してゐる仕草に
しっかりと刻印されてゐるのだ。
そして、意味が一見全くないやうに見えるそれらの仕草は、
心模様を忠実に表はしてゐる。

――それで何かを語ったつもりか? 無意識は無意識故に無意識といふ意識状態はあるのさ。
――それは詭弁だ。私を籠絡しようとしても無駄だぜ。無意識といふ言葉を全的に肯定して、ある種の神格化に成功するといふことは、止揚の乱用に外ならない。

止揚の乱用か。
或ひはさうかもしれぬが、無意識といふ言葉を見出してしまった以上、
無意識は無意識として神格化、つまり、肯定されるのだ。
このときに私は言葉の目眩ましに遭ひ、
あっといふ間に無意識といふ意識の様相を取り逃がしてゐる。
つまり、無意識は既に解釈されるものとして此の世に存在し始め、
フロイトならずとも無意識といふものの存在を、例へば夢を探求することで
その本質が現はれ出ると現代人の誰もが思ってゐるが、
それには懐疑的な私は、最早夢の神通力を信じてはゐないのだ。
現代で、眠ってゐるときの夢見を語ったところで、
それは既に解釈されるものとして体系化されてゐて、
夢が心像の象徴を忠実に表現してゐるなどと思ひ上がった思考は、危険思想の一つなのだ。
何故って、夢に何かを背負はせることは、自死の如く発想を潰すのだ。
つまり、思考を抹殺してゐることに等しき行為なのだ。
ならば、夢見を語ることはもう已めて、
発想の自在感に溺れやうではないか。
それがフロイト以降の正しき姿勢なのだ。



私は函数ではない

私は性能がもの凄い計算機でも私の頭蓋内の闇、
作品名:闇へ堕ちろ 作家名:積 緋露雪