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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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闇へ堕ちろ

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それでも俺は道化師として此の世に存在することを露の夢として夢見る。
道化師より哀しい存在は道化師になれず、
幻視の世界に振り回される俺なのかもしれぬが、
俺は俺として楽しく幻視の世界に振り回されるのを善しとしてゐる。



もんどり打って

時の流れの中にもんどり打って飛び込まざるを得ぬ此の世の存在物どもは
既にその存在が滅する宿命を授けられながらも存在する不合理に
絶えず目眩を覚えつつ、ふらふらと立ち上がらうとするのだが、
此の世の不合理はそんな事にお構ひなしに止めどなく時を移ろはす。

そもそも時間とは何なのであらうか、と、とんでもない愚問を己に発し、
さうして俺は《Fractal(フラクタル)な渦》と時間に関しては素知らぬ顔をして答へるのだ。

そもそも時間が一次方程式のものとして看做せる必然性は全くないにもかかはらず
無理強ひして時間が先験的に一次方程式として振る舞ふものと看做す知性は
その根拠を全く知らぬではないのか。
時間を量子論と結びつけて考へる思考もあるにはあるが、
それでも時間は一次関数の域を出ない。

時間が∞次元とする思考法は果たして誤謬なのであらうか。
時間を一次方程式に閉ぢ込めた事で、
物理学は発展したのは確かであるが、
それはしかし世界認識のたった一つの認識法でしかなく、
世界認識はそもそも多様でなければならぬのではないのか。

仮に時間が∞次元とすると物理法則は新たに書き換へられなければならないのであるが、
それをやらうと人生を擲(なげ)うっていきり立つ己の憤懣に対して正直になれば、
先づは時間の一次形式からの解放が己の仕事なのかもしれぬのだ。

時間を線形の一次形式の中に封じ込める事で
此の世の癖たる法則性を見出したのではあるが、
時計で時間を計る事の欠陥は、
時計が既に物質の振動子の振動数から導くか
歯車複合体により回転する《渦》としてそれを計測してゐるのだ。
つまり、振動子が回転に変換可能な事は勿論の事、
歯車複合体のAnalogue(アナログ)時計は《渦》の象徴である事は言はずもがなである。

それでは∞次元の時間とは如何なるものなのかと言へば、
それは最早現在の物理法則では数式の態を為さないものになるべきで、
例へば力学の運動方程式の微分積分は既にその運命を終へて、
時間もまた、何かによって微分積分されるものとしてその姿を現はすのだ。

その何かとは何であるかと言へば、現時点では不明であるのであるが、
しかし、仮にその何かを《変移子》と名付ければ、
その《変移子》は時間の構成要素の基礎、
つまり、時間の素粒子と言ふべきもので、
時間もまた、何種類もの《変移子》で成り立ってゐるのだ。

と、余りに馬鹿げたことをほざかざるを得ぬ俺は、
世界が嫌ひなのである。
物理数学で表記される世界が嫌ひなのだ。
勿論、感性で語られる世界はもっと嫌ひなのだ。

世界はまた、その認識法が未知な方法がある筈で、
そもそも世界認識には未開な部分が大半を占めてゐるに違ひなく、
それ故に存在それぞれにとって全く違ふ世界があるのだ。
それぞれ違った世界認識は他の世界認識と摺り合はせながら
それを以て共通認識の世界が存在するとの先験的な誤謬は、
そろそろ現存在は気付くべきなのだ。

ハイデガーが『存在と時間』を書くのを中途で已めてしまったが、
その続きはハイデガーの信望者により書き進められねばならぬ。

そして、その内容は、これまでの物理学的な世界認識から自由な、
しかしながら、非線形な現代数学を駆使した世界表記であるかもしれず、
時間は感性に帰する事は余りに馬鹿げたことに違ひない。

ともかく、存在は既に存在する事で
もんどり打って流れる時間の中に飛び込まされてゐて、
何時しか、それに溺れさうになってしまったのだ。

万物は流転するとは太古のギリシャの哲人の言葉であるが、
流転を∞次元形式の時間で書き換へる事は、
己の最低限の此の世に対する受容される姿勢なのである。



夢魔が誘ふ睡魔の中に

何とも言ひ難い程に意識が遠くなるこの睡魔の中に
意識を水に沈めるやうに沈めてしまへば、
後は夢魔の独壇場。

この夢魔の誘ひが曲者なのだ。
夢魔は絶えず俺を騙し討ちしやうと詭計を練っては
手練手管を尽くして、
俺を手込めにしやうとする。

ひらりと飛翔する夢魔は
鳥影の如く俺の意識を蔽ひ、
さっとその足爪を深く俺にめり込ませながら
俺を丸ごとひっ捕まへては、その鋭利な嘴で突き殺す。

とはいへ、殺される俺は既に意識を失ってゐて
夢魔の為されるがまま
心地よく眠りについて夢見の最中。

そして、俺は目の前の出来事を全的に受容し、
何の不審も抱かずにゐればよかったのだが、
一度不意に疑念が脳裏を過(よ)ぎった瞬間、
夢魔の化けの皮を剥ぐやうにして、
夢魔が創りし世界は波辺の砂山のやうに崩れゆき、
俺の意識は息を吹き返すのだ。

その刹那、夢魔はさっさと逃げ失せてゐて、
水面目がけて浮き上がるやうにして
夢世界をぶち破る吾が意識は、
既に覚醒状態にあり、
後は闇を齎す瞼を開けるのみ。

だが、俺は何時も此処で失敗するのだ。
重く垂れてしまった瞼は、
俺の意思に反して開く事なく、
瞼はまるで意識を持った意識体に化したかのやうに
断じて開く事はないのだ。

それもまた、夢魔の奸計の一つに違ひなく
俺はまたもや夢魔の罠に嵌まるのだ。

今度は夢魔はその気配を殺し、
只管、瞼裡にのみ映像を見せながら、私を再び水の中に
つまり、夢の中へと没するのだ。

水中にゐるやうな浮遊感に心動かされつつ、
夢魔の思ひのままに再び操られるのだ。

しかし、その時間は途轍もなく充足してゐて
現実では全くあり得ない展開に俺も巻き込まれながら
悲喜こもごもの俺と言ふ存在が
夢の中で浮き彫りにされてゆく。

それを有無も言はずに受容する、
否、呑み込む俺は、満腹感に満たされて
何とも夢心地の中に気分も浸してゆく事になる。

全く夢と言ふものは
何処にも罠を張っておき、
その陥穽に落ちる事が楽しくて仕方がないのだ。

多分に俺は自ら進んでその陥穽に落ちる事を
しでかしてゐるに違ひいなく、
穴凹だらけの夢の中で、
夢魔が仕掛けたその罠に落ちては
その創りに感嘆するのである。

その陥穽は一つの宇宙にまで昇華してゐて、
見とれるばかりなのだ。

それはMultiverseと名付けられたものなのかもしれず、
多重宇宙が夢魔によって創られて、そしてそれを見せられては、
其処から抜け出す事は私の意思では不可能なのだ。

だから、俺は自ら進んで夢魔が仕掛けた陥穽に落ちるのか。
それすらも覚束ない俺は、
覚醒時にどんな夢を見ていたのかは全く忘れてゐて、
それを善としてゐる。

夢に弄ばれながら、
充実した時間を過ごせれば、
それはそれで魔法の国へと誘はれたやうで、
最早それは快楽でしかないのだ。



そいつは立ち上がりし

不図気付くと俺は何処かはしれぬ見知らぬ場所で覚醒した。
開けられた瞼を再び閉ぢると夢の残骸が転がってゐないか探してみたのだが、
見えるのは吾が五蘊場が表象せし意味不明な映像ばかり。
作品名:闇へ堕ちろ 作家名:積 緋露雪