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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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闇へ堕ちろ

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――畏れ多いからです。つまり、人間も闇が神でしかないと言ふ事を本能的に知ってゐて、それ故に神を疎んじたのです。何故かと言ふに、神は戦好きと来てゐるから手に負へぬのです。そんな物騒なものは早く消したく、人間は火を使ひ、さうして神たる闇を遠ざけたのです。
――ならば、もう一度闇に対する信心を復活させればいいのではないのか。
――いや、人間は一度光を制御できる術を知ってしまったならば、闇なんぞに構ってゐられぬのです。光の下、人間活動は続けられ、さうして人間は更に神から遠くなるのです。神から遠くなる事が、つまり、人間らしいと言ふ皮肉に気付かぬまま、光を神と信ずる錯覚の中で、一生を終へたいのです。

俳句一句短歌一首

闇夜には神が坐る月ありて

捨つるのは何か知らぬがその俺は一目散に吾捨つる



軋轢

さうしろと言ふ俺がゐて、
さうしない俺がゐる。
どちらも俺に違ひないのであるが、
其処には克服出来ない軋轢があり、
その軋轢は黄金の壁の如く俺の頭蓋内の五蘊場で聳へ立つ

その軋轢を跨ぎ果せると高を括ってゐる俺もまたゐて、
何とも複雑な俺が姿を現はすのだ。
しかし、その俺を単純化して俺として捉へてはならぬ。
俺は俺の内部に何人もゐるのが通常で、
その軋轢、若しくは葛藤に躓く無様な俺がゐるのだ。

さうして立ち上がる俺が出現するのをぢっと待ちながら、
俺と言ふ混沌に俺は俺を見失はずにゐると言ふ矛盾に、
否、不合理に絶えず晒されながら、
俺は俺として内部に憤懣分子どもを抱へつつ、
俺は俺として屹立するのだ。

その時、哄笑する俺が必ずゐて
また、俺を正当化しやうとする俺がゐて、
その軋轢は克服し難いほどの底なしの溝があるのだ。

深淵とそれを名付けたところで、何にも変はる事はないのであるが、
しかし、名前を与へて一度名付けると五蘊場で手ぐすね引いて待ってゐる異形の吾が
雑食性のその本性を剥き出して食指を伸ばしてゐるのだ。

食欲旺盛な焼尽し尽くす異形の吾に睨まれた俺は、
一歩後退りして、五蘊場の中で身構へるのである。

何がさうさせるのか。
俺には異形の吾がゐて、
それの扱ひに困ってゐるのは確かであるが
だからといって、この無間地獄から逃れる術は俺にはない。

軋轢は軋轢としてそのままに俺の五蘊場に聳へ立たせて、
そいつとの共存を考へた方が身のためか。
また、底なしの穴として俺の五蘊場に存在させたままに
俺は俺として此の世にある事の不合理を
生きながら躱すと言ふ偽善を
もう存在してしまった以上、
未来永劫に亙って行ふのが身のためか。

何故に俺が存在してしまったのかと言ふ愚問を携へながら
俺は俺として此の世に屹立するのだ。
さうして、俺における軋轢、若しくは葛藤は
解決させずに今も尚、飼ってゐる状況が全くをかしな俺の有様なのだ。



悲哀

存在を否定される事を以てして存在する事を余儀なくされたものは、
その背中に哀しみが漂ふのは勿論、自虐する己の性のまま、
独り黙考の中に佇み、そして舌を噛み切るやうな思ひを抱きながら、
霞をも食らひ、それでも生を手放さずにゐる事を堪へ忍ぶ。
嗚呼、何を思ふ。ただ、のたりと日が沈む中、静かに夕闇に包まれてゆく。

ゆったりと流れる時間にただ、自死のみを意識に上らせながら、
それを鼻をつまんでみては自嘲してみて、
吾を嗤ふ退屈でありながら濃密な時間に身を置く事で、
己の存在の悲哀を噛み締めるのだ。

其処にはきっと空虚しかない筈なのだが、
己はそれを貪り食ふ事しかないのだが、
それが美味くて仕方ないのもまた事実なのだ。

それを他人は霞と言ふのかもしれぬが、
己にとっては三度の飯より美味いものなのだ。
空虚を食らふ事の虚しさがただ、己を和ませる。
それはとことん虚しくなくてはならぬ。
虚しくある事でやっと己は食ふ事の宿命を忘れられ、
浄化される仮象の中で恍惚の態を覚えるのだ。

ゆっくりと日は沈んでゆく。
この夕闇迫りまた、茜色に染まる夕暮れ時ほど
悲哀を背負った存在には相応しい時間はないのかもしれぬ。

さあ、それを避けずに独り地平線に沈んでゆく時間の充足感に身を溺れさせながら、
やがてくる虚しき漆黒の闇の時間の中で独り蹲りながら、
しかし、その豊饒さに吾を忘れるのが関の山なのだ。
ゆやーんと、暮れ行く夕日に中原中也のNihilismを思ひながらも、
己は既にNihilismでさへ救へずにゐる己の有様に苦笑ひするのだ。
ゆやーん、ゆよーん。
汚れちまった哀しみを背負はずして己の悲哀が喜ぶ事があるのだらうか。



微睡みから目覚めしそれは

長き眠りから目覚めしそれは
不意に世界に目をやり、
世界を愛でながらかう呟いた。

――これが世界と言ふものか。なんだかありきたりなものだな。

さうして身を起こしたそれはのっそりのっそりと歩き出したのだ。
それがどこを歩いてゐるのかを自身ではさっぱりと解らぬままに
当てずっぽうに歩いてゐる。
と言ひのもそれは直ちに世界が触りたかったのだ。
世界がどんなものなのか触感で味はひ尽くして
長き眠りの間に努努見てゐた世界と言ふものが
一体全体何なのか一時も早くに知りたかったのだ。

しかし、それはミノタウロスの眷属のやうに世界に触る先から
世界のものは砂と化してはらはらとその形を崩して
それの掌から零れ落ちてゆくのであった。

――なんたることか。

それは世界が砂上の楼閣でしかないと言ふことを
それは初めて知り、愕然となるのであるが
尤も、世界とはそもそもそんなものなのかもしれなかったのだ。

それは触れられるものには手当たり次第に触るのであったが、
全ては砂へと変はってしまふばかりなのであった。

それはなんと哀しい存在なのだらうか。
ミノタウロスの眷属であるそれは
世界が砂であると言ふ真理に確信を持ち、
さうして誤謬するのだ。

哀しき哉、それは
世界を知り得うることなく、
砂遊びをする中で老いて死んでゆくのだ。

ただし、それは世界認識を迷ふ事なく、
また、彷徨ふ事なく此の世を去るのだ。
それはそれでまた、幸せなのかもしれぬ。

世界の様相が砂のみならば、どんなに多くのものが救はれたであらうか。
しかし、世界はそれの認識とは全く違ふ様相を呈してゐて、
世界は混沌と秩序を行き来しながら、
世界そのものをも翻弄するのだ。
何故なら世界とは世界を包摂した入れ子状の様相を呈してゐて、
また、それはFractalなものに違ひなく、
仮にそれが可能ならば世界のどこをどう切っても
世界は金太郎飴の如くに紋切り型をしてゐる筈なのである。

さうして世界は存在するものにおいてのみの唯一無二の世界を表出し、
つまり、各様各様違ふ世界が存在し、
ミノタウロスの眷属のそれのやうに
世界は例へば砂として捉へ
てゐるものも必ず存在し、
それがそのものの途轍もなく個人的な信仰に結びついてゐるのだ。
作品名:闇へ堕ちろ 作家名:積 緋露雪