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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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闇へ堕ちろ

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吾はやがてその大渦に呑み込まれ、
何とも羽化登仙するかのやうな心持で、
睡魔に襲はれ五蘊場は睡眠相に相転移し、
吾はその総出に埋まるのだ。

さて、反復には既に其処に円運動、
若しくは球運動、
若しくは∞次元球運動が控へてゐて、
その反復は一度たりとも同じ相はありはしない。

嗚呼、この感覚が大好きなのだ。
この何とも言へない快楽には、
何ものにも譲れぬ心地よさが全身を占め、
吾はこの全的にその眼前の光景を肯定する睡眠の中へと飛び込むのである。

夢は反復の最たるものなのかもしれぬのだ。
吾は眼前の光景が夢とはつゆ知らず、それでゐて、
何とも奇妙な現実が蓋然性が入り込む余地なく、
確率一の割合で存在し、
つまり、それは、最早、己の逃げ場がない現実世界で、
さう認識する吾はその完全の光景を全肯定して受容するのだ。

これが睡眠時において毎日反復され、
夢魔の思ふがままに操られる吾が其処にゐる。
そして、それに吾は満足すら覚えながら、
夢魔の思ふがままに其処にゐる事を強制されてゐるのであるが、
それを強制とは全く感じる事なく、
吾は夢魔が表出させる反復の大渦巻きに呑み込まれる事を是とするのだ。

つまり、反復は創造の時間とも言へ、
夢魔が起こす反復に呑み込まれることで吾は毎回生まれ変わるのだ。
再生。
反復は畢竟、再生の異名でしかなく、
それ故に反復は心地よいのだ。

嗚呼、この時間が永劫に続くことを渇仰するのは一体誰だ。
それは、吾以外あり得るのか。

さうして、吾は大時計の振り子の前から徐に離れる事で、
吾をぶった切る快感を味はふ。

秋空に消ゆるは誰の影なりぞ

鱗雲何を捨つるか迷ひつつ唯朔風のみが胸奥に吹く



不図気付くと

不図気付くとそいつが傍らにゐて、
絶えず俺に罵詈雑言を浴びせてゐるのだ。

――あんたは、そもそも己の存在を問ふだけの頭を持ってゐやしないぜ。不条理此処に極まれり。あんたさあ、馬鹿だよね。
――現存在とはそもそも馬鹿ではないのかね。
――そこさ、あんたのをかしな処は。あんたさあ、何をもって、存在なんぞ馬鹿な事に血道を上げてゐるのかな。をかしいだらう。世界認識が出来ない奴が、存在とは……笑止千万。

尤も、そいつも世界認識の何たるかを知らないのは自明に思へた。

――へっ、よく、森羅万象なんぞと、大仰な言葉を簡単に使へるな。
――しかし、存在は荘厳なものではないかね。
――馬鹿な。存在なんぞ、虫けらの生と一緒さ。あんたは虫けらの生を馬鹿にしてゐるだらう。
――いや、昆虫ほど世界に順応した存在は此の世にない。つまり、昆虫は世界認識が元元出来てゐるのさ。先験的に昆虫はその生に世界認識が埋め込まれてゐる。
――すると、あんたにしてみると、虫けらに美を感じるのかね。それでは訊くがあんたの生と虫けらの生を比べる事をあんたはしてゐないかい? ちぇっ、それこそあんたの思ひ上がりも甚だしいのが解ってゐるのかい、このうすのろが。

そいつの声が俺の心の声なのは重重承知してゐたとはいへ、
俺はその俺に対して罵詈雑言を絶えず吐き続けるそいつが
愛らしくて仕方がないのも、また、事実なのである。

そもそも馬鹿者でない存在が此の世にあり得るのであらうか。

――はっ。

と、吐き捨てると俺は独りで暗がりの中にゐる自分を発見し、
嗤はずにはゐられなかったのだ。
そんな俺の口癖は何かと言ふと

――疲れた。

と言ふものであり、
当然、生に疲れてゐた俺にとってそいつの存在は、
心神耗弱した俺が見る幻覚に違ひないのであるが、
幻覚が見えてしまふほどに疲れてゐた俺は、
独り暗がりに横たはり
浅い睡眠をとるのが日常なのである。

その浅い眠りの中、当然、俺は夢魔に弄ばれて、
目くるめく転変する夢魔が現出する世界に翻弄されつつ、

――何を馬鹿な。

と半分信用してゐない己を見出すのであったが、
しかし、それは夢見るもののLogicからは逸脱してゐて、
夢魔が現出する世界は夢見るものにとって全肯定せねばならぬものであり、
さうあることで現存在は世界認識の度合ひを深めるに違ひないのであるが、
どうも俺は、そもそも夢魔を馬鹿にしてゐるのかもしれなかったのである。
さうでなければ、夢魔に弄ばれることに快楽を見出す筈で、
快楽を味はへるからこそ、
世界認識の扉は開くに違ひないのだ。

尤も、俺に世界の何が解かるのかとそいつは問ふのであったが、
俺がかうしてあることが既に世界認識へ至る端緒に違ひなく、
それ故に俺はそいつの罵詈雑言を心地よく聞いてゐられたのかもしれぬのだ。

不図気付くとそいつは俺の傍らにゐて、
俺はと言ふと、
そいつの罵詈雑言を欲してゐたのだ。
何ともMasochism染みてゐて
自虐的なもののみの特権として、
世界認識と言ふ大それたことに手が出せて、
しかも存在に関して思ひを馳せられるとの先入見に騙されながら、
俺はそいつの罵詈雑言を頼りにして、
独り、静静と現存在の虚しさをやっとの事で嘆けるのだ。

――それで、あんたは幸せかい。

俳句一句短歌一首

此の世とは奇妙に捻ぢれた秋の夜

何を知る知らねばこそ意味あるに知って吾が身を亡ぼす吾は



神影

果たせる哉、例へば闇夜が神の影とするならば、
それは成程、∞を呑み込む様相といっていいのかもしれぬ。
何故に神に∞が纏はるのかは、人間の知が∞を前にすると、
屈服するしかなく、
それでも人間は∞に立ち向かふのであるが、
馬鹿らしい、
人間の知の限界がまた∞を前にすると俄かに露はになるのだ。

∞を表象しやうとじたばたした人間の五蘊場には
既に知恵熱で破綻しさうな堂堂巡りに没入し、
そのあっぷあっぷしてゐる中で、
人間が仮に∞の尻尾に捕まる事が出来たなら、
それは儲けものに違ひない。

それを例へば神影と名付けるならば、
神影は絶えず人間の傍に潜伏してゐて、
気付かぬのは人間のみなのだ。

例へば夜行性の動物はそれだけ神に近しいものに違ひなく
闇の中で、つまり、神影の中で自在に動けるそれらのものは
多分、人間以上に神を知ってゐる筈なのだ。
獣が毛に蔽はれてゐるのは、
毛が神に近づく姿の基本で、
体毛を極極僅かにしか軀に留めぬ人間が
此の世で一番神から遠い存在なのは間違ひない。

それ故に人間は宗教に毒され、また、狂信的にそれを信じなければ、
一時も安寧を得られぬやうに創られてしまってゐるのだ。

そして、宗教から此の世で一番遠い存在の人間は
狂信的に宗教に煽られて、
同類で殺し合ひをその人類史と同じ長さで続けてゐるのだ。

それならば、闇を信仰の対象にすればいいのであるが、
既に人間は闇を信仰の対象としてゐて、
然しながら、それは光あっての闇でしかないのだ。
しかし、それは偏向した神に対する接し方で、
闇そのものが主神である宗教体系が作られなければ、
人間が神に近づくなど烏滸(をこ)がましいと言ふものだ。

その時、お前は作麼生(そもさん)と言ひ放ったので、
俺は思はず説破と応じた。

――何故に人間は闇を畏怖したのか。
作品名:闇へ堕ちろ 作家名:積 緋露雪