エビフライとプラチナの月夜
店から百メートル離れると暗い路上で漠然と海の方向を見た。遠く離れた岬の灯台の光が奇跡のように彼女の眼球に届いた。内面的自我が小さく発火したようだ。多幸子は母親の手提げ袋から携帯電話を出し、担任に電話をかけた。
「田村先生、母は帰り道に傷害事件を起こしました。警察に捕まったようなのでしばらく連絡を取れないと思います。しかし奨学金の申請書は私が押印して三十分後にファックスします。内容をチェックして県の担当者に連絡してください。書類の原本は明日お渡しいたします。どうかお願いします」
多幸子は、ひとつ深呼吸すると月下の国道を南に向けて走り始めた。自宅まではあと四キロメートルくらいなので三十分で走り着けるだろう。
エビフライを食べたから大丈夫!
承認欲求を満たした経験も、人から褒められた経験もない少女が青く小さく燃える悟性的意思のみに導かれて走り出した。プラチナのように輝く十三夜の月が叫んでいた。早く満月に成りたいとばかりに。
作品名:エビフライとプラチナの月夜 作家名:花序C夢