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三つのわだかまり

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 ただ、今ここで、佐久間巡査部長のことを口に出したということで、清川は、本当に我に返ったようだ。
「俺、今何を言ったんだ?」
 と確かにいった。
「覚えていないのか?」
 と聞くと、
「ああ」
 というではないか。
「何か、金儲けをできるような話だったが?」
 と、意を決して聞いてみた。
 前述のような想像が的を得ていれば、せっかく本人が忘れてしまったということを、わざわざ思い出させるということで、自分にリスクを負わせるということになり、
「まずいことになるのではないか?」
 と思えるからだ。
 それを考えると、
「余計なことを聴かない方がいい」
 と思えるのだ。
 しかし、もし、清川が、
「佐久間さん」
 という言葉を口にさえしなければ、完全に、忘れたままの状態で、
「事なきを得た」
 と考えるのだろうが、どうしても、ここで出てきた佐久間という名前は、
「佐久間巡査部長以外にはない」
 という思いからきているということになるのであった。
 つまりは、
「佐久間巡査部長を清川が知っている」
 ということは、清川は、世話になったことがあるということで、俺のことも分かっているということになるだろう。
 そこで感じたのが、
「清川は、俺が万引きをしたことがあるということを、知っているのではないか?」
 という思いであった。
 それは、最初、
「佐久間巡査部長から聞いたのではないか?」
 と思ったのだが、
「佐久間さんほどの人が、人の秘密を軽々しく話すはずがない」
 ということであった。
 しかも、
「清川と俺が知り合いだということを、どうして佐久間巡査部長が分かるというのか?」
 ということであった。
 ただ、
「この三人が、どこか何かの糸でつながっているのではないか?」
 と感じるようになると、前述の、
「ヘビ、カエル、ナメクジ」
 という、
「三すくみの関係」
 というものを感じさせるのだった。
 これは、それぞれ他の二人に対して、片方には強く、片方には弱いという関係性が循環しているということで、その三つがけん制し合うことで、
「それぞれに抑止力というものを植え付けることになる」
 ということと、
「最初に動いたものは、絶対に助かることはない」
 ということを組み合わせて考えるものだということだったのだ。
 そんな三すくみの関係だったからこそ、
「先ほどは、自分が清川の目になることができたのかも知れない」
 と感じた。
 ただ、ここまでくると、彼が
「詐欺を考えている」
 ということが分かってきた。
 これは、自分が、
「佐久間巡査のつもりになって見ているからだ」
 と感じたからで、そう思うと、
「清川も同じような目を持っているのかも知れない」
 と思うと、
「こいつ、俺が昔万引きしたということを知っているのかも知れないな」
 と感じた。
 しかし、それを分かったのは、
「俺が万引きをしたという事実を持ち出して、それで脅迫でもしようということなのではないか?」
 と感じた。
「あの時は出来心で、しかも無意識のこと、だから、俺に罪はない」
 などというわけにはいかないだろう。
 といっても、
「こいつらに通用しないだろう」
 と思えた。
 どんなに小さなことでも、利用しようとする連中であれば、
「万引きの事実」
 そのものではなく、それ以外の小さな精神面をえぐろうという心理戦を展開しようとしているのかも知れない。
 それは、
「小さなアリの穴から大きな山も崩れる」
 というものであり、一種の、
「心理的な盲点を突く」
 ということなのかも知れない。
 だが、その三すくみの関係が、プチっという音とともに切れてしまったような気がしたのだ。
 それがどういうことなのかというと、
「俺には分からないが、三すくみの一角が途切れたのかも知れない」
 と感じた。
 それは、同時に胸騒ぎだった。
 そう、
「虫の知らせ」
 といってもいいかも知れない。
「まさか……」
 と西島は感じた。
 その瞬間に、まるで悪寒が走ったかのように、身体を思い切り凝縮させて、清川が、震えを起こしたのだった。
 それがどこから来るのか分からなかったが、清川にも、身体の異変がお互いに起こったことを感じたのであった。
「西島も感じたよな?」
 というので。
「ああ」
 と答えた。
「佐久間さん」
 とその時、清川がいったが、それがまるでこの少し前に口にした名前を呼んだその瞬間から、抜けられず、
「永遠の循環に入ってしまった」
 ということに気づいたのだった。
 西島は、最近、小説を書いていて、自分の書いている小説のネタと、どこか似ていることに気が付いた。
 そして、西島が先ほど感じた
「悪寒の正体」
 というものが分かった気がしたのだ。
 そうだ、この後の展開では、
「三すくみ」
 というものの一角が崩れ、つまり死んでしまったことで、別の次元に飛び出したことで、「三すくみというものがなくなってしまい、最後には、一角がないにも関わらず、結局は抜けることができない
「三つ巴」
 に変化してくるというものであった。
「佐久間さんは、永遠に、俺たちと三つ巴なんだ」
 と思うと、固まってしまった自分を、清川と二人で、西島は感じているのであった。

                 (  完  )
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作品名:三つのわだかまり 作家名:森本晃次