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ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
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メイド女房アフリカ滞在記

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 日課の水泳がまだだったので、遅いとは思ったが誰もいないプールへ泳ぎにいった。水中はライトアップされ水色に輝いてきれいだったが、周囲は消灯し、本当は営業時間外だったのだろう。確かに何かあったら危険である。美琴は足の届かない深さ不明の直径三十メートルくらいありそうな六角形のプールを、人に見とがめられないよう静かに往復して部屋に戻った。
 
 アフリカのこの界隈の大概のホテルの朝のビュッフェでは目の前でオムレツを作ってくれる。担当スタッフは卵液をレードルでボウルに注ぐと、周りにずらりと並んだ細かく刻んだ玉ねぎ、ピーマン、トマト、マッシュルーム、チーズなどから、客の選んだものをひと匙ずつ加えてかき混ぜ、バターを溶かしたフライパンに流し込み、スプーン一本で器用にまとめてフライパンを返し、三分位できれいな木の葉型のオムレツを作る。これが大変おいしい。美琴は以来帰国後もオムレツと言えばこの作り方を踏襲している。日本のホテルではプレーンばかりでこのような具の入ったオムレツを作ってくれるのを見たことがない。
 
 朝早くホテルを出たのだがエアポートに行くタクシーが途中で故障してしまった。エンジンがプスプス変な音を出し始め、ついに停まってしまい、運転手がエンジンをいじっていたがどうにもならないようだった。周囲は家もなく草原の真っただ中。携帯電話もないこの時代、どこにも連絡がつかず、フライトの刻限が迫る。これはかなり焦る。
 そこへ天の助けか、別のタクシーが近づいてきた。しかも空車である。運転手はそのタクシーを止め、事情を話し、客をそちらに譲るから空港まで送ってお金をもらってくれ、というようなことを交渉したようだ。おかげで我々はそっちのタクシーの乗り換え、無事フライトに間に合ったのだった。エンコしたタクシーの運転手は通りがかる車が現れるまでひたすら待つしかなかっただろう。
 
 帰宅後不機嫌な正弘に美琴が問いただした。
 「何が気に入らないの?」
 「あのさあ、カジノであんな身を乗り出してみっともないだろ」
 「そう?みんな乗り出して見てたじゃん。ならその場でそう言ってくれればいいのに」
 「そんなこと言いにくいじゃないか。そもそもカジノってのはみんなお洒落してくるところなんだよ。あんな恰好でさ、恥ずかしいだろ」
 「最初に教えてくれればいいのに」
  美琴が思い返してみるに、そのカジノでドレスやネクタイの人は居なかった。みんなカジュアルなスタイルだったし、ドレスコードなど聞かされていない。はっきり言って、正弘自身もジーパンにアロハシャツだったじゃないか。私がショートパンツに半袖シャツだったのがそんなにみっともないことだっただろうか。
 難癖をつけてきたとしか思えなかった。
 そもそも美琴が初めての場所に行くのに、経験値のある夫が何のアドバイスもしてくれないのだからどうしようもないではないか。気になるなら最初から教えたらいい。一切口をきかない仮面夫婦をやりたいなら、いっそ沈黙を守って後からの文句も言わないで欲しいものだ。ああ、そうか、沈黙を守って不機嫌な態度で表現して八つ当たりしていたのか。こっちが不快さに耐えきれず詰問しなければあのままずっとブリブリしていたのか。そうくるなら、こちらも徹底的に何も感じないふうに装うタフな精神が必要だったというわけか。かなりそうしているつもりだったが、修行が足りなかったな。
 ああ、面倒くさいやつだ。まるで意地悪な登場人物が意図的に主人公を陥れる少女漫画かドラマのようだ、と美琴は昔読んだ漫画を思い出す。
 
 ゴルフ場での一件もあり、美琴はこの男が夫として全く機能していないことがつくづく身に染みた。仮面夫婦として取り繕うことさえできていないのだから。美琴の存在は何のためなのだろうか。プロポーズした時の「絶対幸せにします」は美琴に向けられたものではなく、正弘自身が「幸せになってやる」ということだったのだろう。
 にしても、彼自身、今幸せそうには見えないのだが。
 性の問題にしても、正弘がこれを問題視していない自体が問題だった。浮気なら非難できるが、セックスレスはどうすればいいのか。妻の相手をせず、妻の存在を人格をないがしろにする、という点では同じことではないのか。セックスレスというのはマイナスの浮気、みたいなものではないのか。美琴自身は欲求が募って悶々する、というタイプではないので性行為自体にそれほど執着しているわけではない。長く付き合ううちに、お互いの体調や気分でそういう気にならないのはそれはそれで構わないのだ。しかしそれ以前にセックスどころか口をきくのも嫌なうえ、手を繋ぐのも隣にいるのも嫌そうだ。美琴は何より人格を無視するような態度に腹立たしさを覚えるのだ。
 そうか、そもそも美琴は妻ではなく女中扱いなのだ。女中とセックスするわけにはいかないってことなのだろう。だったら、結婚していることに何の意味があるのだろうか。いっそメイドとして家事労働の対価としてのしかるべき給料で雇われたほうが、妻という名目で給料が食事だけで支給されるよりはるかにマシだ。
 
 
 
 <12.婦人会総会>
 
 
 ラガに帰り、日常に戻ると美琴はいよいよ本格的に正弘と話し合わなければと思っていた。
 
 婦人会メンバーの幾人かと親しくなり、お互いの家でお茶をするような機会も増え、美琴は他の人に質問してみたことがある。
 皆さん、言いにくいかもしれませんが、夫婦なんだから普通セックスってしますよね、どのくらいの頻度でなさるものなのか、と。なんのつもりでそんな話を振るのかと上品な彼らを驚かせるのも悪いので、最初から「うちはここに来て以後そういうのが全くないんですけど」と打ち明けた。皆それは普通ではない、と思ったようだ。
 日本油脂の水倉洋子さんは
 「ご主人もしかして同性が好きなんじゃない?」
 彼女は美琴よりいくつか年上で、お見合いでご主人と出会い、イケメンご主人にぞっこんらしい。色々な噂にも精通していてあけすけな話題にも付き合ってくれる。
 「うーん、二度ばかりやったことはやったからどうかなあ。体育会出身とは聞いているけど、ボーイズラブかどうかは。あ、一度夫にお金を払うプロの女の人のところに行ったことはあるのか?と聞いたことあるんだけど、その時『そんなん男だもの当たり前じゃん』って言われたのよね」
 「そうなんだ、じゃあホモってわけでもないんだ」
 八千代商事の元木静香さんは
 「じゃあものすごく淡泊な方なのかしら?」
 「だって金出してまでプロのとこに行ったわけでしょ」
 「そうよねえ、じゃあ今どうしてるのかしら」
 元木さんも水倉さんと同年代。職場結婚してこちらに赴任した細身で上品な感じの女性だ。変な話題でもまじめに聞いてくれる。
 「そうよ、男の人ってたまっちゃうっていうじゃない」
 水倉さんが反応する。
 「さあねえ。両刀使い?とにかく私には興味ないみたいよ」
 「処女じゃなかったから嫌とか?」と水倉さん。
 「今時そんなのある?三十過ぎてるのに」
 「もしかしてプロとしかやったことない素人童貞とか?」