小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

メイド女房アフリカ滞在記

INDEX|14ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

 会場はやけに広いのだが、展示は少なく閑散としていた。各ブースも木製の台やドアだったり、手作り感満載でやけにうら寂しい。日本の幕張メッセなどとは段違いとはいえ、この時代、アフリカでコンピューターの展示を見られるだけでもすごいことなのだろう。それにしてもコンピューターを置いているくせに会場に冷房が効いておらず、暑くてたまらないので早々に引き上げる。ビーチ沿いのホテルに行ってお茶にした。美琴はチーズケーキとジュースを頼む。ベリーのソースがかかって生クリームとミントが添えられた立派なケーキだったが、味はカッテージチーズをそのまま食べているような感じだった。ゼラチンと砂糖と生クリームと檸檬風味が足りないのだろうか。その後はビーチにいってフラフラしていたらフィリピンバーの女の子たちとすれ違ったりした。
 佐竹氏とのデートを終え、ゴルフ場に向かうと、正弘と田中さんはちょうど最後のコースを回っているところだった。皆でホテルに戻り身づくろいをして佐竹氏の部屋へ集まり、佐竹氏のメイドが作ってくれるギアナム料理のランチを食べた。ゼリアと同じく見た目が中華まんのようなトウモロコシ粉の主食、こちらではクーフーと呼ばれるもの、がオクラスープの真ん中に鎮座している。ペペは入れないので辛くなく、乾燥魚介系の出しがきいている。あとはいんげんと卵とチーズの巻きずし、いんげんやニンジン、玉ねぎのかき揚げなどの日本食を作ってくれていた。メイドが日本人に雇われて教えられたのだろう。
 帰路は時間の節約のため、運転手は車で帰らせ、我々は空路を使った。ファーストクラスがのチケットが取れたのでラウンジでビールを飲みながら搭乗を待つ。美琴は佐竹氏にもっときちんとお礼を言いたかったのだが、あわただしく空港に向かってしまい、まともに話ができなかったことが悔やまれた。そもそも夫が「妻がお世話になりました」としっかり挨拶をすべきではないのかと思ったのだが、「あ、じゃお世話になりました、では」くらいで軽くすませてしまい、申し訳ない気分だった。後でお礼状を書いて送ろうと思う。
 出国時は軽くチェックするだけで賄賂も要求されず、飛行機は定刻に飛び、ギアナムはこれでもゼリアよりはまだしもまっとうな国だったと感じられた。車だと一日がかりだったのが航空機だと一時間もかからずラガ空港に到着した。ここで意外だったのはギアナムからの国際線だとイミグレーションも税関もあまりにもすんなり通れたことだ。十分で空港の外に出られ、これは最速記録である。もっともそのあとすぐにヨーロッパからの便が控えていたのでラガ空港の職員はそれを手ぐすね引いて待っていて、アフリカ大陸の国同士の国際線はどうでもよかったのだろう。
 
 ラガに帰ってきても相変わらず電話は壊れている。それでも停電はこのところ治まってきたので、婦人会の友人たちと庭のテニスコートでテニスをしたり、週一の音楽教室も復活した。
 美琴がゴルフができないと旅先で持て余すので、社長宅のコック中島さんからゴルフのレッスンを受けることになった。自宅のフラットから車で5分くらいのところにエコークラブというエコーホテル系列のスポーツクラブとセットになったゴルフ場があり、角倉商事の福利厚生なのか駐在員と家族はここの会員券をもらえる。
 中島さんは以前ゴルフ場のレストランに勤めていただけあって、それなりにゴルフがお上手なのだ。仕事の合間に練習できたらしい。美琴はゴルフ道具を職場の仲間に結婚祝いとしてプレゼントされたのだが、ゴルフ自体は全くの初心者である。中島さんは連日美琴に付き合って親切に指導してくれた。夫に教わるより余程いい。おかげで美琴もどうにかコースにでられるくらいにはクラブを振れるようにはなった。
 
 
 
<10.ラグーンクルーズ>


 太って入らない服が増え困ってきたので美琴もさすがに真剣にダイエットに取り組むことにした。体重計がないのではっきりとはわからないが、十キロくらい増えたのではなかろうか。カロリー計算しながら料理をし、余計なものを食べないように気を付けた。同じものを食べているのだから当然正弘も太っているのだが、カロリー計算している美琴をみて「いちいちカロリーなんか気にしなくっていいよ」と気楽なものだ。太ることはあまり気にしないようだが。
 せっかくフラットの中庭にプールがあるのだから、と、美琴は毎日三十分は泳ぐことにした。家で着替え、泳いで、家に戻ってシャワーを浴びる、というのは東京で区営プールに出かけていくよりはるかに簡単だった。毎日続けても苦にならないどころか、そのうち毎日続けないと落ち着かない気分になっていった。
 平日の昼間はたまに子供連れが浅い子供用プールで水遊びをする程度でほぼ誰もいない。以前メデリアホテルのプールサイドで見かけたのと同じオレンジ色の大きなトカゲがここでもちょろちょろしているくらいだ。
 このプール、管理者が時々塩素をばらまいているのを見たことがあるが、水の衛生状態が信用できない。なので美琴はいつも顔を上げての平泳ぎしかしなかったのだが、ある時、プールの底にオレンジ色のトカゲを発見してしまった。このままトカゲ入りプールで泳ぐ自体が気持ち悪く、意を決して潜水しトカゲのしっぽをつかんで水から引き上げ放り投げた。心臓がバクバクした。プールサイドをうろついてうっかり落ちてしまったのだろう。放り出して置けばいずれ管理者が片付けてくれるだろう。気づかずこのまま水中で腐ってたら、と思うとぞっとする。
 
 そんなある日、正弘が会社関係の知り合いから、ラグーンクルーズに誘われたという。正弘はその日一日ゴルフに出かけるとあって、美琴だけがそのクルーズに参加することになった。ホンマ発動機の社長がボートを持っているとのことで、ホンマの社長夫人、従業員の川俣さん、美琴のような他社からの参加者が数名、ラグーンに面した桟橋に集合する。
 ボートはラグーンを進み、途中ぐらりと大揺れし、美琴の傍に立っていたホンマ社長夫人が咄嗟に美琴のブラウスにしがみついたので、ブラウスのボタンがちぎれ飛んで生地の一部が裂けた。夫人は一言、「やだあ、びっくりしたわあ」いや、びっくりしたのはこっちなのだが。

 島が点在するラグーンでとある小さな島に立ち寄り、各自がおにぎりやから揚げなどを持ち寄って交換しあったりしてお昼を食べた。
 島にはヤシの大木が古代の列柱のように林立し、そこにさわやかな風が吹き抜けビーチリゾートそのものだ。アズールブルーの空と遠浅の明るいブルーグリーンの海。深く昏いギニア湾とは大きな違いだ。
 しばらくすると土産物売りが現れ、木製の舟にたくさんの木の人形が乗せてある飾り物やらろうけつ染めの色鮮やかなクロスなどを目の前の地べたに並べてくる。
 いずれも友人宅でよく見かけたことがあるようなものだった。舟の全長は七十センチくらいあり、そこに七センチくらいの木製乗組員が座っていてなかなか面白い。が、いくらなんでも持ち運ぶには大きすぎる。
 そこで美琴は大きなテーブルで使える長方形のテーブルクロスを一枚買ってみた。二百五十リア、日本円で千二百五十円くらいである。