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エーテル論者と天球儀

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 さて、いろいろありつつも先輩や仲間たちのおかげで326年のところを313年で戻ってきたかの彗星男。そこでは黒穴屋がHD384661姐さんの元に直接押しかけ、Gliese 966gちゃんをわがものとすべく直談判に及んでいるところでした。

「金などいらん。さっさと娘をよこせ」

「そう言われましても、何度も言うようにあの娘には許婚がいるんです。どうかお諦めください。お詫びに少ないですが、こちらを差し上げますから」

「なら、許婚の顔を見せろ」

「そう言われましても……」

「ただいま戻りました。おや、お取り込み中でしたか」

「ああ、おまえさん。ようやく帰ってきたのかい」

「なんだ。ここは木っ端彗星が来ていい場所じゃねえぞ」

「いえ、あなた自分でおっしゃったでしょ。顔を見せろと」

「む? おまえが許婚だってぇのか?」

「ええ。前から約束していたんですよ」

「急ごしらえにしたって、もう少しいい男がいたろうに」

「ところで……、黒穴屋さん。こんなとこにいていいんですかね」

「なんだ、どういう意味だ」

「あなた、周りからやりすぎだと思われてるようですよ。後家や若い娘がいる家への貸し付けほど不当に利息を釣り上げて……」

「ふん。なにを根拠に」

「彼女らの行方はもう闇の中ですが、彼女らを慕っていた星たちから話を聞いたんですよ。彼らも被害が自分の想い星だけじゃないと知って、役人らに事情を話しにいくそうです。そこから証拠が上がれば、告発、ということにもなるでしょうね」

「…………」

「ここは一つ、新しい妾よりも過去の女のことを考えたほうがいいんじゃないですかねぇ」

「……わかった。ちょこざいな彗星に免じて、今回は引き下がってやる。金もいらん。だが、覚えとけよ」

 黒穴屋は真っ黒な顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりして立ち去っていきました。

 さて、Gliese 966gちゃんを無事に黒穴屋の魔の手から救った彗星男は、HD384661姐さんの仲立ちで正式に彼女と顔合わせをし、その後、夫婦となりました。でも、質量に差があったので連星としてではなく、惑星妻の衛星として彼女の周りをくるくる走り回っている毎日です。

 やっぱり元は彗星のようで、しっかりものの嫁の尻に敷かれていても、自分の尻はやっぱり据わらないようです。


作品名:エーテル論者と天球儀 作家名:六色塔