あなたに似た人2
「これからどうするんだ? その、弟とやらは、別人の体に入ってるんだろう? どうやって見つける?」
ルロイが聞くと、レドリーは「その前に」と言って、スーツの内ポケットから指輪を取り出した。
「これを持っていてください。指に嵌めなくても大丈夫なので」
「うん? うん。なんかのお守りか?」
ルロイは受け取り、しげしげと眺める。銀色の表面に、ぐるりと幾何学模様が彫り込まれていた。
「はい。魔術への」
レドリーの言葉を遮るように、何かがルロイの周囲で弾けた。
「えっ? はっ?」
驚いたルロイが周囲を見回す。通行人も、驚いた顔で二人に視線を向けていた。
レドリーが溜め息をつき、もう一つ、指輪を差し出す。
「こんな町中で仕掛けてくるとは。迷惑ですね」
「え? え?」
レドリーは、ルロイの手の中に指輪を押し込み、
「魔術への耐性を高め、干渉を防ぐものです。効果は見ての通りです」
「は? は!? えっ、それって、つまり」
戸惑うルロイに、レドリーは頷いた。
「つまり、犯人である弟とやらが、あなたを殺そうとしたのです。自分ならあなたを狙うと、クリスが言いましたね?」
兄弟だから分かるのでしょうか、と付け加えるレドリーに、ルロイは言葉に詰まる。
「では、行きましょう」
レドリーが唐突に歩き出したので、ルロイは慌てて追いかけた。
「い、行くってどこに!?」
「犯人のところに。魔力の痕跡を辿ります」
「そんなこと出来……早い早い! ちょっと加減しろ!」
大股で進むレドリーに対し、ルロイは小走りでついて行く。レドリーは振り向きもせず、
「頑張ってください」
「ふざけんな!!」
駅前まで来たところで、ルロイはレドリーに追いついた。
「おっ……まえ、な……ほんと……ふざけっ……!」
肩で息をしながら、周囲のざわめきに構わず、立ち止まって辺りを見回すレドリーに近づく。
「……っ、はあ。何してんだよ。見失ったのか?」
「はい」
「はい!?」
声を上げたルロイに、レドリーは視線を向けて、
「ここで途切れています。これ以上の追跡は無理ですね」
「無理ですね、じゃないだろ!! どうすんだよ!!」
ルロイが抗議しても、相手は眉ひとつ動かさず、
「ここにいても仕方がないので、帰ります」
と言い、踵を返して歩き出した。
「いやいやいや! ちょっと待て! なあ! おい!!」
ルロイが、引き止めようとレドリーの腕を掴んだとき、
「ああ、なるほど。ここで途切れているね」
聞き覚えのある声がした。
「クリス。何かありましたか?」
ルロイより早く、レドリーが口を開く。
いるはずのない男の姿に、ルロイが目を瞬いていると、クリス・ノーマンは微笑んで、
「君は追跡が苦手なことを思い出して。それに、転移術も」
そう言って、折り畳んだ二枚の紙をレドリーに差し出した。
「行って、帰ってきなさい。ハートさんを、きちんと守るように」
「…………」
レドリーは、無言で紙片を受け取る。
クリスはルロイに向き直ると、
「では、気をつけて」
穏やかに言い、雑踏に紛れて見えなくなった。
「…………」
「…………」
少しの間。先に口を開いたのは、ルロイだった。
「えっと……? 今のは?」
「魔道士としては、クリスのほうが上なので。犯人の居場所を突き止めたのでしょう」
レドリーは不機嫌そうに言って、紙片を開く。
そこに描かれている円陣に、ルロイは目を丸くした。
「これ、魔法陣ってやつか? 初めて見た」
物珍しげに覗き込むと、レドリーが溜め息をつく。
「転移の魔法陣です。これで、犯人を追います」
「え?」
「私から離れないように」
レドリーが、魔法陣の描かれている紙を一枚、眼前に掲げた。
ルロイが慌ててレドリーの腕を掴むのと同時に、二人の姿は消える。
一瞬のどよめきも、直後に溢れ出てきた人波に飲み込まれ、すぐにかき消えた。