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あなたに似た人2

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自分の部屋。鏡に映る自分。
これは自分の顔ではない。これはウェイン・ノーマンの

「ウェイン」

兄の声に、ウェインは勢いよく振り向いた。
クリスの顔は穏やかで、いつもと何も変わらない。まるで、先刻までのことが夢であったかのように……。

「話は聞いていたね?」

静かに問いかけられて、ウェインはバツが悪そうに頷いた。

「座りなさい」

兄の言葉に、ウェインはのろのろと椅子に座る。クリスはその前に立って、静かにウェインを見下ろした。

「君の身元は、レドリーが突き止めてくれる。数日で分かるだろう。彼は優秀だからね」

平静な声に、どうしていいか分からず、ただ頷く。
誰の身元だと言うのか。発見された死体のか。それは本当に自分なのか。自分はこうして生きているのに。

「君はどうしたい?」

穏やかな問いかけに、ウェインは戸惑いながらクリスと目を合わせた。
微笑みを浮かべる兄。どうして笑えるのだろう。兄は、この人は、ずっと弟の帰りを待って

「卑怯な聞き方かもしれないね。でも、私が決めていいことではないから」

クリスが申し訳なさそうに言う。なら、誰が決めるのか。自分か。本来のウェインか。

「あの……」

ウェインは躊躇いがちに口を開き、閉じた。自分を見つめるクリスの顔色を伺うように、再び口を開く。

「あの、俺、は」

口の中が乾いて、上手く言葉が出てこなかった。
逃げ出したい。ここから逃げ出したいと、全身が悲鳴をあげる。

知りたくない。怖い。

「俺、は。あの……俺、は、ウェイン・ノーマンでは、ない?」
「そうだね」

静かに、穏やかに、クリスが頷いた。まるで大したことではないように。

「君が選べる選択肢は多くない」

クリスが続ける。静かに、穏やかに。悲しみも怒りも、遠い過去に置いてきたように。

「残念ながら、君の体はもう亡くなっている。君の魂は漂白され、元の記憶を取り戻すこともできない」

残酷な現実を突きつけられながら、ウェインはぼんやりとクリスを見つめた。

「このまま、ウェイン・ノーマンとして生きるか、死んで復讐するか」
「ふく、しゅう……?」
「そう。体が死ねば、戻ることはできない。いつかは、私かレドリーが弟の魂を追い詰める。君は、弟が戻る場所を失わせるかい?」

クリスは首を傾げ、言った。

「君にはその権利があると、私は思う」
「けん、り……」

言葉が、頭に入ってこない。ウェインは、二、三度瞬きして、

「俺、は」

だが、続ける前に、クリスの手がウェインの口を塞いだ。

「私のお願いを聞いてくれないか? 名も知らぬ人」

穏やかなクリスの声に、ウェインは戸惑いの視線を向ける。

「私はずっと弟を探してきた。生きていてほしいと願った。悪事に手を染めていようと、私にとって、ただ一人の家族だから」

ウェインの目に映るクリスの顔は穏やかで、優しくこちらを見つめていた。

「私から、二度も弟を奪わないでほしい。このまま、ウェイン・ノーマンとしての生を受け入れてほしい。そうすれば、私が君を守ると約束する」
「…………」

ウェインは身じろぎすると、手を上げて、クリスの手に触れる。
そっと押すと、抵抗もなくその手が下ろされた。

「ごめん……」

囁くような声が、クリスの口から漏れる。

「ごめん……ごめんなさい……死にたくない。生きたい」

ウェインの目から涙が溢れ、頬を濡らした。

「ごめんなさい……あなたの弟として……生きさせてください……。お願いします……お願い……死にたくない……」

嗚咽を漏らすウェインの背を、クリスが撫でる。
ウェインは涙を流しながら、クリスの肩に顔を埋めた。

作品名:あなたに似た人2 作家名:シャオ