あなたに似た人2
キッチンに通され、ルロイは大人しくテーブルの椅子に座る。何故か棒立ちのレドリーの袖を引き、座れと身振りで示した。
「話を聞きに来たんだろう?」
ルロイが言うと、レドリーはちらりと視線を向けてから、のろのろと座る。
その様子に、ルロイは戸惑って眉を顰めた。
レドリーのことをよく知っているわけではない。だが、朝に会った警官たちの様子からすると、愛想のない無表情が彼の普通らしいことは分かった。だが、今のレドリーは感情的になっている。怒りや苛立ちを隠そうともしていない。その原因は、おそらく、というより間違いなく、クリス・ノーマンにある。
「紅茶でいいかな、ハートさん?」
「えっ? あ、はい。えっ!?」
クリスに聞かれ、名乗っていないはずだとルロイは慌てた。相手は穏やかに微笑んで、三人分のカップを置くと、向かいの椅子に腰を下ろす。
「それで、なにから話そうか?」
「彼は誰ですか?」
レドリーが硬い声音で言った。
「あなたを兄さんと呼んでいた」
「ウェイン・ノーマン。私の弟だよ」
「違う」
レドリーが苛立たしげに首を振る。そして、クリスを真っ直ぐに見て、
「彼は、誰ですか。あなたの弟の体に入れられた、彼は」
クリスは穏やかな顔のまま、軽く首を傾げ、
「それを君に突き止めてほしいんだ。人探しは、君のほうが上手いから」
会話が不穏な気配を帯びてきて、ルロイはそわそわと自身の首を撫でる。蚊帳の外にされている不満より、これ以上踏み込んではいけないという不安が沸いていた。
「だから、遺体をあの場所に置いたのですか」
「そう。見つけ出すのに手間取ってね。遅くなって申し訳ない」
そわそわしていたルロイが、ギョッとした顔でクリスを見る。
レドリーは、そんなルロイに構わず、
「わざわざ保管の魔術までかけて」
「身元を特定するには、顔が分かったほうがいいだろう? 私としても、綺麗な姿で埋葬してやりたかったから」
「えっ、なんで?」
思わず口を挟んだルロイに、クリスは視線を向けて、
「何故なら、あの遺体の彼は、今は私の弟だから。肉体が死んでいては、魂を戻せない。だから、せめて丁重に扱いたいんだ」
「は? え?」
その返答に、ルロイは思わずキッチンの入り口を振り向いた。ウェインが入っていった部屋の扉は、ここからは見えない。
クリスは、お茶を一口飲んでから、
「最初から話したほうが良さそうだ」
と言った。