あなたに似た人2
洗濯物を干し終えたウェインは、満足げに額を拭った。
兄のクリスが仕事に行っている間、家事を引き受けたのだ。気を使わなくていいと言われたけれど、ただぼんやり兄の帰りを待つだけなのも辛い。
掃除に取り掛かる前に一息つこうと、キッチンでお茶の支度をしていたら、玄関からなにやら物音がした。
兄が忘れ物を取りに帰ったのだろうかと、ウェインはひょっこり顔を出す。
「兄さん? なにか忘れ物?」
だが、そこにいたのは見知らぬ長身の男。暗い目が、じろりとこちらを見下ろしていた。
ウェインが口を開くより早く、男の背後から焦ったような声が上がる。
「なにやってんだよ! 不法侵入だろ!」
「そうですね」
「そうですね!?」
目の前で繰り広げられる現実味のないやり取りに、ウェインは愛想笑いを浮かべて、
「ええと……どちら様、ですか? 兄に用でしょうか?」
長身の男がツカツカ近寄ってきたので、思わず一歩下がった。相手の背後から小柄な男が回り込んできて、長身の男を押し留める。
「やめろっつってんだろ! お前が捕まってどうする!!」
「退いてください、ルロイ」
「この状況で退くわけねーだろ! いいから落ち着けって。この人が、例の?」
ルロイと呼ばれた小柄な男が、振り向いてウェインに視線を向けた。ウェインは訳も分からずに首を振る。
「し、初対面ですね!?」
間の抜けたことを口走ってしまったなと、頭の片隅で考えた。
ルロイは、サッと顔を戻して、
「おい! 初対面って言ってるぞ!?」
「はい。初対面です」
「おい!?」
冷静な口調の相手は、しかしひたとウェインに見つめて、
「彼は被害者です。アマンダ・リデル、カルロ・ダニーズと同じ相手に、魂を入れ替えられた」
水を打ったように静まりかえる。
長身の男の言葉はまるで心当たりがないのに、ウェインの中ですとんと腑に落ちた。
ああ、そうか。そうだったのか。
だから、自分は
「用があるのは私だろう、レドリー?」
二人組の男たちのさらに後ろから、聞き慣れた声がする。
「兄さん!」
ウェインが咄嗟に呼びかけると、クリスが穏やかな口調で「忘れ物をしてね」と言った。
「彼らは私に話があって来たんだ。あとは私が聞くよ。お前は部屋に行っていなさい」
静かに促され、ウェインは頷くと、二人の男たちに軽く頭を下げ、自分の部屋に滑り込んだ。