あなたに似た人2
慎重に斜面を降りた先、二人は崖の端に立つ少年を見つける。
振り向いた相手の顔を、ルロイはまじまじと見つめてから、息を吐いた。
違う。兄ではない。
距離を置いて対峙する。少年の体がふらりと揺れて、ルロイは慌てて腕を伸ばした。
「危なっ!?」
駆け寄ろうとしたルロイの周囲で、何かが弾ける。
驚いて立ち止まったルロイの目の前で、少年の姿が消えた。
「あっ」
崖に近づこうとしたルロイの体を、レドリーが押し留める。
「見ないほうがいいです」
呆然とレドリーを見上げたルロイは、「さっきの」と口を開いた。
「なんか、魔術を使われたのか?」
「ええ」
「入れ替わりの?」
「おそらく」
レドリーの返答に、ルロイはぐっと息を飲む。
「防いだな」
「はい」
「俺は入れ替わってない」
「そのようです」
言葉が途切れると、周囲から葉擦れの音が聞こえた。
どこかで鳥が鳴き、下草が微かな音を立てて揺れる。
冷えた風が、するりと頬を撫でた。
「遺体を回収します」
沈黙の後、レドリーが言った。ルロイは、のろのろとレドリーを見上げる。
「身元を特定して、遺族に引き渡します」
「……そうだな」
「それで、終わりにします」
その言葉に、ルロイは二、三度瞬きした。
レドリーの相変わらずな無表情を見つめていると、不意にクリスの言葉を思い出す。
『人探しは、君のほうが上手いから』
そうか、と腑に落ちた。レドリーはずっと探していたのだろう。自分を実験台にした魔道士を。
だから、彼は生きたかったのだ。死ねば、果たせなくなるから。
それを、終わりにするのだ。
「そう……だな」
もう一度、口に出す。
レドリーが、急に遠い存在になったような気がして、ルロイは視線を逸らした。
「あなたは、どうしますか?」
レドリーに聞かれて、ルロイは身を固くする。
「俺、は」
口の中が乾いて、上手く言葉が出てこなかった。
自分は、どうしたいのだろう。
どうすればいいのだろう。
ルロイ・ハートであることを。
「ここに残りますか?」
続くレドリーの言葉に、ルロイは思わず「は?」と声を上げた。
「遺体を回収する手筈を整える為に、私は戻ります」
そう言って、クリスに渡された紙片を取り出すのを見て、ルロイは慌ててレドリーの腕を掴む。
「いやいやいやいや残らねえよどうやって戻れってんだよ来た道も分かんねえのに」
一息に言うと、レドリーはじっとルロイの顔を見つめて、
「考え事をしていたようなので」
「考え事なんて、戻ってからするわ!!」
勢いで言ってから、ふっと体の力を抜いた。
そうだ。答えを出すのは、戻ってからでいい。
レドリーが紙を掲げ、ルロイはまた軽い眩暈を覚えた。