あなたに似た人2
半年後。
「兄さん、早く! 急がないと売り切れちゃうよ!」
もどかしげに走る身振りをして、ウェインが急かしてくる。
クリスは笑いながら、分かった分かったと返した。
ここ最近の忙しさもひと段落して、今日は久しぶりに、弟の買い物に付き合っている。
ウェインは、近所のスーパーマーケットや小売店を熟知しているようで、野菜はここ、肉はそこ、卵は……と、あちこち連れ回されていた。
知らないうちに頼もしくなったものだと苦笑して、クリスは弟の後について行く。
先日、レドリーから、遺体の身元が判明したという手紙が届いた。そっけない文面で、遺族へ引き渡す手続きを進めているという。ルロイの魔道士としての修行も順調なようで、次の鑑定は任せてみると書いてあった。仲良くしているようでなにより。
雑踏を器用にすり抜けて行くウェインを見失わないよう、クリスが足を早めると、
『また遊ぼうね、兄さん』
聞き覚えのある声が、耳元で囁く。
足を止めたクリスに気がついて、ウェインが声をかけてきた。
「兄さん、どうした?」
「うん? いや、気のせいだったみたいだ」
クリスが微笑んで頭を振ると、ウェインは心配そうに覗き込んでくる。
「やっぱり、疲れてる? 一度帰ろうか?」
「いいや、大丈夫。それに、いい気晴らしになっているから、心配はいらないよ」
「それなら、いいんだけど」
クリスは、微笑みながらウェインの腕を叩いた。
「ほら、急がないと売り切れてしまうんじゃないか?」
「あ、そうだった!」
駆け出さんばかりのウェインに、クリスは声を上げて笑う。
そして、胸の中で呟いた。
私は、君の兄ではないよ、見知らぬ人。
人混みの中に、兄弟の姿は紛れて消えた。
終わり