あなたに似た人1
アマンダ・リデルは、ルロイの恋人だった。
最初は、ルロイが働くスーパーの客として出会い。
時折、言葉を交わすようになり。
アマンダのほうから、デートに誘ってきた。
一年半付き合って、ルロイのほうからプロポーズをし、アマンダは喜んで受け入れた。
「お互い、家族はいないから。結婚式の代わりに、友人達とパーティーをしようって話になってて。その日、彼女は女友達とドレスを見に行ったんだ」
ルロイは俯きながら、ぽつぽつと話す。レドリーは身じろぎせずに、黙って聞いていた。
「本当に、その瞬間まで、彼女は幸せそうだったって。友達に、俺と指輪を買いに行くって、嬉しそうに話してたって。なのに、突然」
言いづらそうに顔をしかめた後、ルロイは息を吐き出して、
「突然、彼女が悲鳴をあげて、道路に飛び出したらしい。そこに車が来て……俺は連絡を受けて、すぐ病院に行ったんだけど……間に合わなかった」
両手で顔を覆い、絞り出すように続ける。
「なんでそんな……。自殺じゃない……自殺する理由なんてないのに……意味わかんねえ……」
ルロイは手を下ろし、無表情のレドリーに視線を向けて息を吐いた。
「もっと意味わかんねえのは、その数日後に知らねえおっさんが来て、自分はアマンダだって言い出したことだ。なに言ってんだこいつ、頭おかしいんじゃねえかって。アマンダの遺体は……俺が確認した。アマンダは死んだ……死んだんだ。それを、あのおっさん……」
「…………」
レドリーがなにも言わないのを確認するように見て、ルロイは言葉を紡ぐ。
「頭にきて、怒鳴りつけてやった。追い返して、それで、カッカして、アマンダの件で知り合った刑事に、教えてやったんだ。頭のおかしいおっさんがこう言ってたけど、あいつがなにかしたんじゃないかって。ただの八つ当たりだけど」
ルロイから話を聞いた刑事は、レドリーが中年男性の自殺の件を引き継いだことを教えてくれた。もし関連があるなら、アマンダの件も魔道士が絡んでいるかもしれないと。
「アマンダの事件を鑑定した魔道士はなんと?」
レドリーの問いに、ルロイは視線を天井に向けて、
「まだだ。魔道士の手配がつかないんだと。それで、あんたのところに来たんだか……」
ルロイは言葉を切ると、気まずげに周囲へ視線をさまよわせてから、手を揃えて頭を下げる。
「先程は申し訳ありませんでした。あなたに、アマンダの事件を鑑定してもらいたい。このままでは、事件性なしと、自殺と処理されてしまいます。俺……私、は、真実が知りたい。このまま、有耶無耶にされたくないのです」
「お願いします」と続けるルロイを、レドリーは無表情に見つめた。
「真実が知りたいのですか? 犯人を、ではなく?」
「……はい」
頭を下げたまま、ルロイが絞り出すように言う。
「……あなたの鑑定結果を、受け入れます」
それは知り合った刑事から、住所を教える代わりにと何度も念を押されたことだ。
不本意な結果であろうと、必ず受け入れろと。たとえ、自殺と断じられたとしても、異議を唱えてはいけないと。
本来なら担当範囲外の仕事を受けない魔道士に、無理を承知でねじ込むのだから。
『魔道士を敵に回すな』
守りきれない、と、硬い顔で刑事は言った。
だから。
「分かりました。私が鑑定します」
レドリーの無感情な言葉に、ルロイは勢いよく顔を上げる。
「い、良いんですか!?」
「はい。それが、私の役目です」