あなたに似た人1
レドリーが納屋で自殺した男の捜査を引き継いでから、数日後。
自宅であるアパートに帰宅しようとして、一人の男に立ち塞がられた。
「あんたが、レドリー・ダンカンか?」
レドリーは、茶色の巻き毛に濃い緑の目をした男の顔をじっくり眺めてから、
「私は、あなたを知らない」
「だろうな。俺みたいな虫ケラは、魔道士様の目には映らないんだろ」
腕を組んで見上げてくる相手は、レドリーより頭一つ分は小さい。
「あなたは人間に見える」
レドリーの言葉に、相手はポカンと口を開けてから、慌てて首を振った。
「くそっ、そんなことはいいんだよ! あんたが、あの事件を引き継いだんだろ?」
「名前を、ミスター。見知らぬ相手に、教えることは出来ない」
淡々としたレドリーの言葉に、相手は舌打ちして、
「これだから魔道士は……。俺はルロイ・ハート。三ブロック先のスーパーで働いてる。あんたも来たことあるぞ。見かけたことがある」
「そうですか。私はレドリー・ダンカン。魔道士です。警察の要請を受けて、現場を鑑定します。魔道士の関与が疑われる場合、捜査を引き継ぎます。あなたの言う「あの事件」とは、納屋で自殺した男性のことでしょうか?」
レドリーの感情のこもらない説明に、ルロイは頬を引き攣らせる。
「お、おう……。魔道士ってのは、みんなこんななのか? と、とにかく、俺の恋人が、その事件に巻き込まれたらしい」
ルロイが言うと、レドリーは黒い目を向けて、
「あなたは、あの男性の恋人なのですか」
「ちげーーーーーーーーーよ!!!!!!」
ルロイの絶叫に、レドリーは無表情で「違いますか」と言った。
「なんなんだよ!! お前なんなんだよ!! 魔道士ってのはこんななのか!?」
地団駄を踏んで喚くルロイに、通行人が奇異の目を向ける。だが、レドリーだけは身じろぎせずにその様子を眺めていた。
息を切らして動きを止めたルロイに、レドリーは「すみません」と頭を下げる。
「私は、感情を表現するのが上手くない。魂が体に定着していないのです」
「……は?」
ポカンとするルロイに、レドリーはアパートを示して、
「私の部屋へどうぞ。あなたが関係者なら、話を聞く必要があります」
案内された部屋は、モデルルームのように整っていた。生活感のない室内をひと通り見回してから、ルロイはレドリーに視線を向け、
「あんた、本当にここに住んでんのか?」
「はい、本当にここに住んでいます」
相手は気を悪くするどころか、一切の感情を見せずに答える。ガラス玉のような目に、ルロイは居心地の悪さを感じて、顔を背けた。
レドリーは、ソファーを手で示して、
「座ってください。コーヒーを淹れます」
「ああ? いらねーよ」
ルロイは噛みつくように言ってから、レドリーの無感情な目に怯む。顔を背けて、ボソボソと続けた。
「……長居する気はねえ。あんたに、聞きたいことがあるんだ」
「どうぞ」
「…………」
棒立ちになるレドリーを前に、ルロイはガシガシと頭をかいて、ソファーの背に体を投げ出す。
「……あんたも座ってくれ。立ちっぱなしじゃ落ち着かねえ」
「分かりました」
背筋を伸ばして座るレドリーに、ルロイは胡散臭いものを見るような視線を向けてから、重々しく口を開いた。
「あの自殺したおっさん……俺のところに来たんだ。自分は、アマンダだと言って」