あなたに似た人1
レドリーが所轄署に電話をかけるのを、ルロイはぼーっと見つめる。
こんなにあっさり引き受けられるとは思っていなかった。何日かかろうと説得してみせると意気込んでいただけに、拍子抜けしてしまう。
レドリーは淡々と、自分がアマンダの件を鑑定すると告げ、受話器を置いた。向き直ったレドリーの感情のない目に、ルロイは怯む。
「明日、遺体を鑑定することになりました。貴方も立ち合いますか?」
「えっ? あ、で、出来るならそうしたい……です」
「分かりました」
どもりながら答えるルロイに、レドリーは頷いて、
「では、明日の朝10時に、所轄署に来てください」
「分かっ……りました」
ルロイがつっかえながら言うと、レドリーは無表情に「話しやすい言葉で結構です」と言った。
「貴方は慣れていないようだ」
レドリーの言葉に、ルロイはぐっと詰まる。
「いや、慣れていなわけではなくて……なんと言うか、職場以外では、なんか……こう……」
「話しやすい言葉で結構です」
「あ、はい」
ルロイは一旦呼吸を整えると、
「じゃあ……そうする。あんたのこと、レドリーと呼んでいいか? 俺のことはルロイと」
「大丈夫です、ルロイ」
レドリーの抑揚のない返答に、ルロイは苦笑した。
「引き受けてくれてありがとうな、レドリー。また明日」
「はい、明日」
レドリーの部屋を辞して、ルロイは自分のアパートへ帰る。
モデルルームのようなレドリーの部屋とは大違いの、雑多で狭い部屋。鍵を開け、軋む扉を開くと、荒れ放題の室内に入った。
脱ぎっぱなしの服をベッドから床に投げ捨て、皺の寄ったシーツに寝転がる。
「アマンダ」
愛しい人の名を呼ぶと、彼女がもうこの世にいないことが強く意識された。
「アマンダ……」
ルロイは頭を抱え、うめき声を上げる。
君がいないのに、なぜ俺の心臓は止まらない? なぜまだ息をしている? 君のいない世界で生き続けるなんて、俺には出来ない。真相を明らかにしたら、君の元へ行くよ。だから、もう少しだけ待っていてくれ。
ごろりと寝返りを打ち、両手を下ろして天井を見上げた。
先程まで一緒にいたレドリーの様子を思い出し、身震いする。
あの魔道士、信用できるのだろうか。まるで作り物のように表情がない。突然押しかけたルロイに気を悪くするでもなく、アマンダの話に同情するでもなく、淡々と、事務的に事を運んでいた。魔道士が変わり者なのは知っていたが、あそこまでとは思わなかった。
明日、あいつは本当に待ち合わせに来るのか? 本当に、担当外の事件を鑑定してくれるのか?
そもそも、魔道士なんて……。
そこまで考えて、ルロイは自嘲気味の薄笑いを浮かべた。
お前に他人を疑う資格があるのか? 愛する人すら欺いていたお前に。
「なあ、ルロイ・ハート。あんた、なんで死んだんだ?」
【続く】